MAZDA BLOG
2012.6.1

【CX-5のデザインができるまで #7】クレイモデラー阿部さん

この記事は、過去Facebookに掲載した記事です。

「CX-5のデザインができるまで」

第7回目はクレイモデラー阿部さんに、「プロセス6:クレイモデル(インテリア)を造る」について話を聞きました。

20120601_01a.jpg

 

デザイナーの想いを立体にするクレイモデラーという仕事

クルマのデザインはデザイナーが絵を描くことから始まりますが、スケッチだけではどうしても表現しきれない立体表現が沢山出てきます。そこで、我々クレイモデラーがクレイと呼ばれる工業用粘土を用いて、スケッチにある立体感や空間、そしてそのクルマが持つ世界観を表現していきます。クレイモデラーは、コンマ何ミリの世界で、粘土を削り、理想のプロポーションをイメージし創り上げていく職業なんです。

だから私達はエクステリア、インテリア、どちらの制作にも関わります。インテリアもクレイで実物と同じサイズで検討し、表面に革やアルミ箔などを貼り込み、実際のデザインとなった姿をイメージしやすい形で、常にチェックしながら造りこんでいきます。

クレイモデルを造り、デザイナーが確認し、というステップを繰り返してデザインは創られていきます。そしてデザインの最終確認という段階まで進んだ際には、クレイを計測して作成したデジタルデータを元に、より細かなところまで表現したパーツの樹脂モデルなどを作製し組み込むことで、実際の車のインテリアと見分けが付かない精巧なモデルに組み上げ、最終的なデザインを確認します。

エクステリア、インテリア、両方に関わるからこそわかる難しさ

エクステリアとインテリア。この2つは、かけ離れた作業と思われがちなのですが、イメージを立体に表現するという根本の作業自体は大きくは変わりません。ただ当然ながら少しずつ難しいポイントが違います。

エクステリアの難しさは、複雑な面を持つボディの中で、張り感、光の映り込み、線の強さなどをどう表現するかがやはり難しいです。一方でインテリアの場合は、形だけでなく様々な素材感を表現するのが難しいポイントです。インテリアには沢山のパーツがあり、その表面処理をそれぞれベストな方法で表現するのですが、同じ世界観の中で統一された質感と形で表現する必要があり、その達成の為に、日々苦慮しています。

デジタルとクレイ、得意分野を活かしながらインテリアは創られていく

20120601_01c.jpg

インテリアを創る場合、どこをクレイモデルで造り、どこをデジタルモデルで造るかは、予め決まっているわけではないんです。その時々に「このパートはデジタルが向いてるな」とか、「クレイで表現してみたほうがいいな」と、求められている答えに近づけるやり方を自分達で考え常々選択をしています。

すべてクレイで造ることもできるし、逆にすべてデジタルで造ることもできるのでしょうけれど、それぞれお互い得意な分野を活かしながら活用しています。イメージとしては、細かく精度ある造り込みをしたい場合は、デジタルが長けています。逆に素早く現実空間で共有したい時や微妙な表情、手触りを確認しながら造りたい場合等は、クレイの出番となるといった切り分けです。

例えば、ドアのスイッチパネルには独特な表面処理が入っています、これをクレイで作れって言われたら、まあ出来なくはないんですけど、ちょっと寝込んでしまう(笑)。やれって言われたら、たぶん、マツダのモデラーはきっとやると思います。無茶ぶりに応えることに、喜びを感じてしまうタイプが多いので(笑)。ただそういう手造りでは時間のかかるパートはデジタルで造ればよいと思っていますし、現在はそうやってお互いの得意分野を活かしながらデザインを造り上げています。

CX-5のインテリアで表現したのは、すっきりした上質感

CX-5のインテリアにはメッキパーツが、ドア、インパネセンター、ステアリングの3ヵ所に入っています。クルマに乗り込もうとした際にパッと見たときに目に飛び込んでくるパーツとなりますので、一つ一つの造形にはかなりパワーをかけてやりましたね。黒の中にあるメッキパーツはかなり強い表現にもなり得ると思うのですが、調和がとれた中にもメリハリのある表現になっていると思います。

それから、表面が革素材になっているところの柔らかさの表現、陰影の心地良さでさえもインテリアで見て頂きたいポイントです。車内に入ってくる光はそれぞれの利用環境によって違うのですけれど、どこまで光を受けて、どこから影になるのかというところまで意識して作っています。

CX-5のインテリアには様々なこだわりが詰まっている

統一感あるインテリア空間創りには、これまで以上にこだわり抜いてます。例えばインパネ周り。今回あえて、ドライバー側と助手席側でインパネ周りの世界観を変えているんです。助手席側は乗っていて安心できるように、断面に適度なボリュームを持たせています。ドライバー側は運転に集中できるように、と。メーターフード周りのデザインは皆でアイデアを出しながら何度もトライし、フードがインパネに刺さった感じの独立した造形をすることで前進感を表現し、コックピット感を演出しています。

それと、リアコンソールも結構こだわって造ったんですよ。リアコンソールって普通に造ると地面に対してまっすぐになると思うのですが、CX-5はドアを開けた時にドアトリムの造形やインテリア全体に調和する様にかなり斜めになっています。そうすることで、乗り込んだ時にシートの間で、前進感やスピード感の演出に一役買っているんです。脇役ですけどね。

20120601_01b.jpg

どこまでも“こだわる”けれど、“苦労は悟られない”努力

クレイモデラーという仕事をしていく上で、いつも心がけていることはお客さまに“苦労を悟られない”こと。苦労しているなっていう、汗臭さを出したくないなと思っています。実際に中々デザインが決まらなくて、苦戦することも多いんですが、大変な時こそ笑顔を忘れず奮起して頑張るようにしています。その時の心情、体調がクレイ造形に出るんですよね、本当に。

お客さまに自分が関わったクルマをご購入していただき、実際走っている姿をみると、非常に達成感を感じます。それと同時に、「もっと満足してもらうにはどうすればよかっただろう」といつも考えていて、そういう想いは忘れずに次のクルマ造りに活かせていけたらと考えています。

 

 

次回は、カラーデザイナー岡村さんです。

お楽しみに!

カテゴリー:クルマ