MAZDA BLOG
2015.6.18

【マツダの匠】衝突実験、その一瞬にかける匠たちのこだわりと挑戦(前編)

マツダのクルマづくりに息づく伝統、主義、思想、そして技能。それらを受け継ぐ匠の志や情熱をご紹介する連載企画『マツダの匠』。第5回目の今回は、クルマの安全性に大きく寄与する衝突実験を支える匠を紹介します。

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ダミーによる衝突実験の大切さ 

コンクリートのバリアに衝突し、大きく曲がるクルマのボンネット。つんのめったダミー人形がエアバッグに受け止められる…。TVなどでよく目にする衝突実験のシーンです。実はこの瞬間、クルマの安全性を確認するために貴重なデータが、さまざまな値として計測されていることをご存知でしょうか。

これらのデータは、クルマの安全性を客観的な数字として保証するだけでなく、さらに安全なクルマづくりへの礎として役立てられます。そしてデータの計測に不可欠なのが、人間に代わって衝突を体感し、体に加わる衝撃力の大きさ=傷害値を測る「ダミー」なのです。

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(左写真:正面衝突実験直後の車体)

 

祈るような気持ちで、その一瞬にかける

一口にダミーといっても、その中身はとても複雑。ゴムの外皮の中に人体の骨格を模したフレームがあり、その中には、試験内容に合わせて、G計、荷重計、変位計など数多くのセンサーが取り付けられた精密な計測器なのです。その複雑さ、繊細さがゆえに、温度や湿度管理が徹底された部屋にて保管しています。

この複雑なダミーをすみずみまで知り尽くし、実験に合わせてシートベルトやエアバッグなどの乗員拘束装置の仕様を決めるのが、衝突性能開発部の匠、岩本竜彦(いわもと たつひこ)さん。

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(左写真:衝突実験を知り尽くす岩本さん)
(右写真:数々のセンサーが内蔵されたダミー人形)

「衝突ほど関連する部品が多い事象はない」との言葉通り、複雑に絡む要素を考慮しながら、目指すべき試験結果を導く仕様を決定していきます。衝突現象自体は0.1秒未満のほんの一瞬で終わりますが、その準備にかける時間と作業量は相当なもの。しかも計測されたデータは、誰が見ても問題のない評価結果が得られなければ、安全性の保証にはなりません。そのためにも、細部にまで考え抜かれた仕様を決めることが必要。その実験直前では、「担当者は皆、最後に祈るような気持ちになります」と語るのもうなずけます。

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(写真:実験開始、その時を待つクルマとダミー。静かな緊張感が実験棟を包む。)

 

幾度も繰り返す衝突実験

衝突実験は、1車種に1回やればいいというものではありません。クルマの安全性に対する意識が高まった現在では、前面衝突だけでも「フルラップ」「オフセット」「斜突」と複数。さらに側面や後方からの衝突実験も行います。

また、各国ごとに定められた法規に適合させるために、輸出車では仕向け地ごとの実験も必要。新しいクルマの開発には、数十回もの衝突実験が必要となります。それら全てで、実験の仕様は異なるのですから、岩本さんにかかる責任は重大です。

そんな岩本さんを支える力強いスタッフの一人が、協力会社であるマツダE&Tの下岡利実(しもおか としみ)さん。実験に使われるダミーを常に管理し、それが正しい計測を行える状態にあるのか検定し、調整を行います。

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(右写真:ダミー人形を慎重に調整する下岡さん)

 

自己流にアレンジせず、基本に忠実に

「これまでの経験からダミーの調子はすぐ分かる」という下岡さんが管理するダミーは数十体。大人だけでなく子どものダミーもあり、体格や性別など種類は様々。さらに実験の内容によって使われる種類も異なり、側面衝突専用のものもあります。また最近は、より人体に近い構造をした次世代型のダミーも開発されていて、非常に複雑な三次元的な挙動も測定できるようになってきました。

それ自体が計測機器でもあるダミーは、とても厳しい基準にしたがって管理されています。例えば、外皮を構成するゴムは温度によって固さが変わるため、常に室温18度から22度の環境で保管。実験前には、細かく規定されたレギュレーションにしたがって、厳格に検定を行わなければなりません。「この仕事では自己流はタブーです」と下岡さんが語るように、決められた手順にそって、決められた数値内のさらに標準を目指すことが何より重要。多種多様なセンサー全てがきちんと計測できる条件を実現するため、地道なチェック操作を繰り返します。

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(左写真:数十体あるダミー人形。一体一体、大切に保管している。)
(右写真:ダミーの管理部位は多岐に渡り、センサーも多種多様。)

 

1ミリ以内の誤差をめざす

ダミー検定は、前面衝突実験用ダミーの場合9項目を行います。具体的には、ダミーの計測部位のゴムの固さや関節部の動作抵抗をチェック。胸部や脚に関しては、規定の重りを実際にぶつけ、それぞれの物理量が定められた値の範囲内であるかどうかを確認します。例えばダミーの胸部には、人間の肋骨にあたる「リブ」と呼ばれる部品が組み込まれていて、このリブを微調整し、何度もチェックを繰り返します。

「胸に関しては、プラスマイナスで1ミリ以内の誤差に収めています」と力強く語る下岡さん。職人としての、こだわりと自信が漂います。

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(左写真:多数の調整用部品(リブ)から最適なものを選ぶ。)
(右写真:測定器がダミー胸部に衝突する瞬間。)

 

組織の垣根を越えて認め合い、高め合う

安全意識の高まりで、今後、衝突実験はますます高度化し、計測器としてのダミー自体も複雑化していきます。そんな中で、ダミー検定を担う下岡さんに対して岩本さんは「いつでも同じ状態でダミーが使えることは、マツダのクルマの安全性の土台となる実験精度の確保に大きく貢献している」と感謝し評価しています。

本社と協力会社の垣根を越えて、その力と技術を認め合い、高め合う。マツダのクルマの安全性は、そうした土壌が支えているのです。

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次回は、検定の終わったダミーをクルマにセットする技術「ダミーセット」についてご紹介します。

公式ブログでは、様々な分野の匠の姿をご紹介しています。⇒http://mzd.bz/takumi_blog

 

また、「Be a driver.」のCMで流れていた「風は西から」。
奥田民生さんが歌うこの楽曲のミュージックビデオにもダミー君が登場しています。
少し泣けるミュージックビデオもご覧くださいね。

 

カテゴリー:ストーリー