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2016.9.21
「リトラクタブルハードトップ」の美しい動きを追究して ~ロードスターの達人② ルーフシステム設計者 松本 浩一

ロードスターの開発に携わったエンジニアやデザイナーを紹介する「ロードスターの達人」。ロードスターRFの第二回目は、リトラクタブルハードトップの開発を担当した松本浩一(まつもと こういち)です。

「リトラクタブルハードトップ」の美しい動き。数え切れないほどの試行錯誤の末、開発されました。開発チームを率いた松本へのインタビューとともにご紹介します。

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出口の見えないトンネルを進む  静かでひたむきな開発初期の日々

「3分割されたルーフは、それぞれこのように動きます。リアウインドウは、かなり複雑な軌跡を描いて……こうして、こう動きます」机の上に置かれた、リトラクタブルハードトップのメカニズムを再現した模型。

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(写真:松本 浩一)

その高さに視線を合わせるように少し前屈みになって、指先で丁寧に動かしてみせる。さっきまで空を遮っていたルーフが器用に格納され、運転席に部屋の明かりが射し込んだ。そして最後に、ファストバックスタイルを特徴づけるリアルーフがボディと連なるデザインの一部へ綺麗に戻ると、顔を上げて一言。

「こういう感じです」

彼は、松本浩一。ロードスターRFのリトラクタブルハードトップを開発するチームを率いたエンジニア。物静かな松本は、この複雑で美しい動きを見せる「新しいリトラクタブルハードトップ」について、誰もが訊ねてみたくなる開発の物語を語り始めました。

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「ロードスターの開発は、まずソフトトップモデルを理想の1台として完成させることを目標に始まりました。リトラクタブルハードトップモデルも創るという計画は、開発の初期からありましたが、両方の都合を予め盛り込むということをしなかったんです。都合というのはすなわち、ハードトップをどのように格納するかということです。私は、ロードスターの開発を皆と共に進めてゆく中で、さてハードトップモデルはどうしたものか、と気になりはじめていました。2013年初頭のことです。」

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松本が心配したのは、物理的な制約のこと。小さな器に、大きな器の水をすべて移せないように、柔軟性のあるソフトトップがちょうど収まるだけの空間に、硬質の素材でできたハードトップが入りきらないことは、自明の理でした。

 

「開発には、いくつかの段階がありました。まず先代のロードスターRHTで採用したメカニズムを踏襲しながらクリアできないかと考えました。すでに発売から10年ほど経ったモデルですが、開閉速度や動作安定性などは今でも競争力があります。そのメカニズムを元にハードトップ部の後端を後ろに引っ張って、その下に生まれる格納スペースを稼ごうとしたり、収納部のカバーを大きくしたり、いろいろ検討しました。ルーフも7分割まで検討しました。

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けれども、いずれの検討案も格好がよくない。おまけにルーフを細かく分割しすぎると、今度は格納したときに高さが出てしまって、クルマの背中に荷物を背負ったみたいに飛び出してくるんです。これは困ったな、と」

 

数え切れない検証の末に姿を見せた“ファストバックスタイル”という答え

松本が重ねた「ルーフを格納する方法」のための検証は、次第にルーフが格納できない物理的な証明となって積みあがってしまいました。

「何の成果も生まない検証のようですが、こういう地道な作業は、本当の解を導き出すために必要なステップです。1つひとつのアイデアについて馬鹿正直なくらい真面目に検証をすることで、領域をまたいだ開発陣の全員に、何ができて何ができないのかを共有してもらうことができます。そこを踏み台にして、新しい道が切り開かれてゆくのです」

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いよいよロードスターRFの本格的な開発を目前に開かれた全体会議の場で、松本はそれまでの検証の成果を発表しました。それは、現状の発想のまま突き進んでも、美しさを維持したままハードトップをすべて格納することは不可能であることを全員に納得させるものでした。
「私のプレゼンテーションを受けて、エクステリアデザイナーの南澤さんが、ファストバックスタイルのスケッチをその場で描いて、皆に提案しました。実は、その 会議の日の少し前にチーフデザイナーの中山さんが私のところへふらりとやってきて、例えばリアルーフを残したファストバックスタイルだったら、リアルーフ 以外のルーフを格納することはできると思うか?と意見を求められたことがありました。私は、南澤さんのスケッチを見たときに、あのとき中山さんに、それ だったらたぶん入りますと答えたことを思い出しました。なるほどそう来たか、と感じました。」

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ここまでの松本の役目は、出来ないことを証明するということでした。けれども、松本が示したこの結果がなければ、ファストバックスタイルで行こう!という真の解を見つけるに至らなかったかもしれません。このような検証を経て、目指すロードスターRFの姿は見つかりました。ここからは、松本のもう1つの本領、創造の力が発揮されることになります。

 

設計という技にできること、とは何か  その奥義に皆で挑戦した共創の力

「これならば出来る、と全員で確かめあったわけですから、もう後には引けません。ルーフをどのくらいの幅で分割するか、格納すべきそれぞれの要素をどのようなリンクで支持するのか、どのような軌跡で動かすのか……。やるべき事は、山のようにありました。旧モデルのリンクシステムでは、新しく設計したルーフを支えるための剛性が足らなかったので、新規のリンクを設計しました。

乗員に干渉しないことなど、必要な条件をクリアできるリンク構造を考えては、コンピュータ上でそれを再現する。うまく動くことが確認できたら、次にリンク剛性を検証します。剛性不足だという結果が出たら、またやり直しです。1つの部品の形状を変えると、他の多くの部品も見直す必要が生じます。そういうことを、なんども繰り返すのです。」

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極めて専門性が高い特殊技術で、我々マツダをサポートしてくれた開発協力会社のスタッフたちも、本当に真心注いで頑張ってくれました。常識的な開発の範疇を超えた我々のリクエストに対して、本当にここまでやるんですか!? と驚かれたこともありましたが、ロードスターRFに対する想いを理解してくれ、いっそう熱く開発に取り組んでくれたことを思い出します」

 

美しきルーフの舞、静かなるメカニズムの躍動  ロードスターRFが備える心づくしの価値

そんなある日、コンマ1ミリ単位で設計変更を繰り返す松本のところにエクステリアデザイナーの南澤がやって来て、理想のデザインを実現するために、ある構造物を現状から70ミリ内側に移動してほしいと要望したことがありました。松本は驚いて、こう言いました。

「できません、って。南澤さんも、そうだろうねと返してきましたが、ちょっと見てもらいたいと言うと、私をデザインスタジオで連れて行きました。そこで彼は、デザインを検証するための黒くて細いテープを、前にあるクレイモデルに貼り始めました。“このラインと、このライン……。こっちの方が格好いいよね”って。わたしは思わず笑って、まぁ確かに格好いいねって答えてましたね。

そこから、また全部ひっくり返してやり直しです。デザインだけではありません。生産も含めた本当に多くのメンバーとそういう時間を過ごしながら完成させたメカニズムなのです」

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(左写真:黒いテープが当初のデザインの希望ライン。その下にひかれたラインが設計要求ライン。右写真:最終のライン。当初のデザイン希望ラインより、より理想的なラインに最終的に仕上がった。)

 

ロードスターRFのリトラクタブルハードトップの開発について、静かに淡々と話し終えた松本が席を立とうとしたとき、最後にこんなことを口にしました。

「もし私がね、それは無理な要求だと突っぱねることができるタイプだったら、仕方がないとデザイナーを諦めさせることができたかもしれません。でも私はそういう性格ではないですし、なによりデザイナーたちが本気でやりたいと思っていて、そのための魂の1本を描いて、どうしてもこれを……と言っているのは分かっていましたから。彼らが描いた格好よさが、設計を担当する自分の達成感のない仕事によってダメになってしまうことだけは、エンジニアとしても、自分自身としても嫌だったのです。絶対にダメです、それだけは」

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ロードスターRFのリトラクタブルハードトップは、見えないところに潜んだメカニズムが静かに力強く支えています。まるで松本という男のようなメカニズムだと、思いませんか。華麗な舞のようなその動きを目にしたら、ぜひ、静かなるエンジニアの存在にも思いを馳せていただければうれしく思います。

 

マツダのオフィシャルサイトや公式ブログでは、ロードスターの開発に携わったエンジニアやデザイナーの想いや秘話を掲載しています。ぜひご覧ください。

▲【ロードスター RF 開発秘話】ロードスターでみなさまに笑顔を届けたい。純粋な夢を追い求めて。
http://blog.mazda.com/archive/20160727_01.html(マツダ公式ブログ)

▲共創の力が生んだ、ロードスターの新しい価値。~ロードスターの達人① エクステリアデザイナー 南澤正典~
http://blog.mazda.com/archive/20160831_01.html(マツダ公式ブログ)

▲ロードスターの達人(ソフトトップ)
http://www2.mazda.com/ja/stories/history/roadster/roadster_25th/interview/yamamoto.html(マツダオフィシャルサイト)

※ブログ内に登場しているクルマは海外仕様車および開発車両であり、日本で発売を予定しているクルマとは異なります。

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