MAZDA BLOG
2018.11.16

ハイポイドギア加工:「走る歓び」を支える匠の技とこだわり

みなさん、「ハイポイドギア」という部品をご存じでしょうか?

クルマに詳しい方ならご存じと思いますが、多くの方は「?」かもしれません。

ハイポイドギアとは「かさ歯車」の一種。自動車にはたくさんの歯車が使われていますが、その中でも、製造が最も難しい歯車の一つとも言われています。

同時に、この部品はマツダの掲げる「走る歓び」に大きく関わるもの。エンジンの動力を伝えるという「走り」そのものでの重要な役割があるだけでなく、わずかな精度のばらつきが異音を発生させたり、その異音を抑えるために不要な重量増を招いたりします。

よって、マツダはこの部品を製造する際の精度と品質に、とてもこだわっています。

 

さて、まず初めにハイポイドギアの簡単な説明をします。

どのクルマにも付いているのか?というと、「NO」です。

マツダでは、AWD(全輪駆動)車つまり「i-ACTIV AWD」のクルマや、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車つまりロードスターのような後輪駆動のクルマに使われています。

ではなぜ、後輪を駆動させるために、このハイポイドギアが必要となるのでしょうか。その理由は、以下の図をご覧ください。

マツダ:ハイポイドギア加工マツダ:ハイポイドギア加工

クルマの前方にあるエンジンから後輪に動力を伝えるための、長い「プロペラシャフト」という部品があります。

このプロペラシャフトの回転は進行方向に対して横向き。この横向きに回転するプロペラシャフトの歯車「ピニオンギア」と、それにかみ合って縦向き回転にするための歯車「リングギア」、この2つのセットが「ハイポイドギア」と呼ばれる部品です。このハイポイドギアを通して、エンジンで発生させた動力を後輪に伝えているのです。

マツダ:ハイポイドギア加工
ピニオンギアとリングギア(ハイポイドギア)

それでは、どのようにマツダがハイポイドギア製造の精度と品質にこだわっているのか?その技と詳細を探るべく、ギア加工の「匠」がいる工場へ行ってみました!

 

 

ハイポイドギアの製造工程

ハイポイドギアの製造には、大きく6つの加工工程があります。

マツダ:ハイポイドギア加工

① 歯切り
歯切り盤と呼ばれる加工機械で、ピニオンギアとリングギアの歯面を削り出します。

② 熱処理
強度(耐摩耗性)を持たせるために、熱処理炉で「浸炭焼入れ」という処理を行います。

③ 研削
研削盤と呼ばれる加工機械で、ピニオンギアの軸外径とリングギアの内径を加工します。ラップ加工時や組み立て時の基準になる部分の仕上げです。

④ ラップ
ピニオンギアとリングギアをペアにして、研磨剤を吹きつけながら歯面をすり合わせ、超仕上げ加工をおこないます。歯切りの跡(ツールマーク)や焼入れによる歪みを取り除き、歯面を滑らかにします。

⑤ 洗浄
洗浄液で、ラップで付着した研磨剤とカスをきれいに洗い流します。

⑥ テスター
ペアにしたピニオンギアとリングギアを専用の計測器にセットして、かみ合いの精度を確認します。また全数、目視でギア同士の歯当たりを検査します。

このハイポイドギアの加工工程で、最も厳しい精度を要求されるのが「①歯切り」です。ここについて、もう少し詳しく説明していきましょう。

 

・ギア加工の根幹:歯切り

こちらが、その歯切りの様子です。


ピニオンギア加工の様子(動画)

歯切り盤を意図したように操り、高精度のギアを生み出すには、機械の操作以外に次の3つの技を習得する必要があります。

1.カッターへの刃具取り付けと調整

2.製品の品質確認と最終調整

3.刃具(ブレード)の刃研(摩耗した刃具を研ぎ直すこと)

なお、この3つ全てをマスターした歯切り加工の匠は、この職場の約30名中で3人しかいません。
それでは、匠の卓越した技を見てみましょう!

 

「走る歓び」を支える匠の技とこだわり

・カッターの調整精度「0.2μm」

マツダ:ハイポイドギア加工マツダ:ハイポイドギア加工
左:切削工具とダイヤルゲージ、右:1μmと0.2μm

左の写真は、先ほどの動画の左側で回転していたカッターです。カッターは円盤型で、外周にブレードと呼ばれる刃具が複数、付いています。

ブレードは定期的に刃研が必要。刃研後にカッターへ、均一な高さで取り付ける必要があります。その調整の精度はなんと、0.2マイクロメートル(μm)!

調整に使う、ダイヤルゲージと呼ばれる機器の1目盛りが1μm(=0.001mm)。その針が目盛り線の上からはみ出さない精度です。ちなみに、人の髪の毛がおよそ80μm。どれくらい細かな精度調整が必要か、おわかりいただけるでしょうか!?

その様子を、動画でご覧ください。


カッター調整作業(動画)

基準となるブレードをセットし、その先にダイヤルゲージを当てます。そして次へ、その次へ…と、ゲージが同じ目盛りの上を指し続けるように、調整していきます。

この調整は、締付け加減だけでブレードが動いてしまうほど繊細。必要とする精度が出るまで、何度も何度も繰り返します。

この調整、匠はカッター1つを30分~1時間ほどで仕上げますが、新人では1日かかっても無理なほど。多くの経験と集中力が必要で、高度な技能が求められる作業となります。

さらにこの作業、加工機械にカッターを取り付けた後に、もう一度行います。機械のわずかな角度の差が発生するために、取り付けた状態での精度も追い求めて、最終調整を行います。

マツダ:ハイポイドギア加工
加工機械に取り付けてカッターを最終調整

こうして、カッターの取り付け作業を完了させて、やっと加工機械の運転開始です!

 

・クオリティを守り、異音を防ぐ「品質確認」

また、ハイポイドギアの品質を守ることも、匠だからこそ出来る技能のひとつ。

カッター交換後、初品で品質確認を行います。ハイポイドギアの歯当たりを確認し、狙った状態になるよう、加工機械を微調整。ここでも、匠の技とこだわりが光ります。

マツダ:ハイポイドギア加工マツダ:ハイポイドギア加工
左:歯当たり確認作業、右:歯当たり検査シート

なお、品質が悪ければ、エンジンからの動力を正確にタイヤへ伝えられません。そして、走行時に異音が発生します。ハイポイドギアから発生するかすかな異音は「ヒューン」という高い音で、「デフノイズ」「高次ノイズ」などと呼ばれます。

仮に異音が出るギアでも、外部に聴こえないようケースで遮音・防音させる方法もあります。しかし、そうすると部品として大きくなったり、クルマとして重くなったりしてしまい、マツダが追求するお客さまに提供したい「走る歓び」にはつながりません。

 

・本質的に優れたギアを生み出す「新製品の試作」

さらに、新製品の試作も匠の重要な仕事のひとつ。

新製品を導入する際には、開発や生産技術領域のメンバーを交えて、匠は試作品の加工を行います。その中で品質のバラツキや量産工程での加工性を判断し、仕様や諸元の提言を行います。
これは、匠だからこそ認められた業務。新しいハイポイドギアの誕生にも、本質的に優れた製品を追求する、匠の技とこだわりが活かされています。

 

0.2㎛までの加工精度を追求し、試作から品質確認に至るまで、高精度・高品質なハイポイドギアを造り込むこと。それはマツダのハイポイドギアが、異音や重量増を招くことなく、正しくエンジンの動力を伝達し、お客さまに「走る歓び」をお届けすることにつながっています。

つまり、工程を熟知するべく「技」を磨き続けてきた匠の「こだわり」が、職場全体の「こだわり」となり、マツダの「走る歓び」を陰から支えているのです。

 

 

匠の「技」と「心」を伝承する

「ハイポイドギアの加工は、昔から続いてきた技能。特に、諸先輩方がやってきた仕事の泥臭いところも含めて大切に受け継いでいることが、この匠の技とこだわりに凝縮されています。もちろん、そのまま受け継ぐだけではなく、今の時代に合うよう自分たちなりに考えていく必要があります。」

そう話をしてくれたのは、ハイポイドギアの機械加工職場を担当する、三吉 晃彦(みよし あきひこ)職長。

マツダ:ハイポイドギア加工
ハイポイドギア加工職場の三吉職長

マツダには、このハイポイドギアの加工技能を伝承する仕組みがあり、伝承者(匠)と継承者は約2年間、通常のライン業務を離れて技能を受け継ぎます。

「継承者に教える内容は、伝承者が考えます。そして、期間を終えると終了課題を設け、その評価で技能伝承が認められます。伝承者から10を教えてもらったなら、継承者はそれに1つでも2つでも新しい要素を加えて、次に伝えていく。これまで匠たちが努力を重ね、広く深く伝承してきたハイポイドギアの加工技能は、これからもマツダの中で大切に受け継がれていくものなのです。」

そして、「マツダは、お客さまに『走る歓び』を提供することを目指す会社。その中で、私たちギア加工の職場が果たすべきは『トコトン良いものを造り込む』ことにあると考えています。『ここまで出来たから大丈夫』と、妥協することはありません。自分たちが限界を決めるのでは無く、良い物をお客さまへ届けるために、最後まで諦めずに挑戦し続けること。それが匠の技とこだわりをはじめ、私たち職場全体の仕事です。」と、熱く語ってくれました。

マツダ:ハイポイドギア加工
歯切り加工職場のみなさん

 

 

最後に・・・

いかがだったでしょうか。

もうすぐ冬が本格的に到来し、AWD車が活躍する機会も多くなると思います。マツダ車のハイポイドギアはすべて、この職場から生まれたもの*。AWD車やFR車を所有されている皆さん、普段は見えない部品ですが、時には思い出して頂けると幸いです。

* 技能伝承の対象としてはCX-5とCX-8のギア加工工程が該当しますが、それ以外のクルマも含めてこの職場ですべて製造しています。

 

それではまた、挑戦し続ける気概を持ち、お客さまに「走る歓び」をお届けする、素敵な職場を紹介できればと思います。

次回もお楽しみに!!

カテゴリー:クルマ , ストーリー