ロードスター商品改良 開発秘話:第4回「パフォーマンスフィールの作り込み」
今年で30周年を迎えた、「マツダ ロードスター」。
このたび、公式ブログでは30周年記念車のベースになる2018年商品改良モデルについて、現行の「ロードスター RF」に搭載されたエンジン「SKYACTIV-G 2.0」開発の舞台裏をご紹介します。
最終回となる第4回は、エンジンとトランスミッションに関わる、「パフォーマンスフィールの造り込み」。開発の総仕上げの様子を、ぜひご覧ください。
(なお、SKYACTIV-G 1.5と共通する改良技術については、「1.5L・2.0L共通」と記載しています)
クルマに乗った時の“走り感”を作り込む
パフォーマンスフィール性能開発
(1.5・2.0L共通)
「人馬一体」をコンセプトに長年、開発を続けてきたロードスター。
今回の商品改良でもクルマとの一体感と、意のままに操る感覚を研ぎ澄ますべく、より深い深化を遂げました。
「0―100km/hの加速タイムや、アクセル全開時の加速度、燃費性能など、クルマのポテンシャルを測る指標は数多くあります。マツダはそこに加えて、ドライバーのインプットとクルマのアウトプットの関係性、その時に感じる人間の感覚を作り込むパフォーマンスフィール(走り感)を高める開発に取り組んでいます」。
そう語るのはパフォーマンスフィール開発に携わった、佐々木健二(ささき けんじ)。
常用域の駆動力が高い2.0Lエンジンに、軽快な1.5Lエンジンの伸び感特性を付け加える。そうすればより一体感は高まり、そこには新たなドラマ「感動」が生まれるのではないか。
その想いを胸に、一丸となって「SKYACTIV-G 2.0」の開発は進められました。
その新型エンジンが搭載されたロードスターRFのMTモデル・ATモデル、それぞれのパフォーマンスフィールがどう深化したのか見ていきましょう。
応答性・制振性を高めながら
繊細に加速度をデザインしたMT車の開発
「MT車の開発においては応答性と制振性を向上させました。アクセルを踏んだ時に車がどのように反応するか。そこをしっかりと伝えられるように作り込んだんです」。
そう語るのは、ロードスターの走行・環境性能開発に携わる、八木淳(やぎ あつし)。
一般的に応答性が良いと言われるクルマは、ドライバーのインプットに対して素早いフィードバックを返してくるために、キビキビとした動きとして感じられているケースが多くあります。
「ただ、応答性にも『早い』と『強い』の2種類があって、ここが強すぎると、ドライバーがビックリして逆にコントロールが難しくなります。大切なのは人間のアクセル操作に対して、いかに素直に思った通りの強さで反応を感じれるか。この作り込みに一番時間をかけました」。
また制振性でも改良が見られます。人間は振動が加わると無意識のうちに筋肉を動かして身体のバランスを取ろうとしますが、振動収束性を制御することでスッキリとした加速度が感じられるように改善されました。
「人って頭をあまり動かしたくない生き物なんです。陸上のトップアスリートも走っているときは頭の位置があまり動きません。運転している時も無意識のうちに目線がずれないように、キュッキュッと頭の動きを補正しようとするからどうしても疲れが出てしまいます。今回の商品改良では、その不必要な修正動作が不要になったわけです」。
長時間のドライブも楽になり、どんな操作でもピッタリと自分にあった動きを感じられるように改善されたMTモデル。運転する楽しさを、よりダイレクトにドライバーへと伝えることができるように、深化を遂げました。
ドライバーの気持ちを数値化することで
期待通りの走りを実現したAT車の開発
「車がある程度自分で走ってくれる分、ドライバーの期待通りの走りをしてやらないと、かえって走りの邪魔になる。そこがAT開発の難しいところです」。
そう語るのは、パワートレイン開発本部の大山一(おおやま はじめ)。
そもそもの前提として、ロードスターのATモデルの開発においては、マツダに無いFR用ATミッションを外部から購入。サプライヤーさんと連携を取りながら駆動力、加速度、エンジン制御などを作り込んでいく必要がありました。一から社内で作業できる領域と比べると、開発にかかるエネルギーは比べ物になりません。
しかし、どのような条件下でもロードスターに求められる性能に変わりはないもの。
ドライバーの思い描く人馬一体の走りをATモデルでも実現させるため、エンジニアたちは日本・アメリカ・ドイツの様々なコースで走行を繰り返し、データ採取と評価を行いました。
通常走行の緩やかな加速時にもエンジン回転の吹き上がり量を低減してダイレクト感を向上させた
テスト走行を繰り返す中、開発者の声で目立ったのが「ダウンが遅い、もう少し早くダウンすればより気持ちよくターンインできる」「ターンアウトの駆動力が意に十分に沿わない時がある」といった、コーナー前・後でのギアコントロールでした。
実は2015年の4代目ロードスター開発時から技術者の中では、もう少し改良の余地があると考えられていました。これを解決するには、エンジンの高回転化や、ターンイン・ターンアウトの走行状態を判別する制御の再構築。全てをセットで折り込んでこそ、本当の効果を発揮します。
「そこで今回はソフトウェア制御のロジックを一から見直すことにしました。パワーが上がったから単に加速度を出して終わらすのではなく、いかにドライバーの気持ちを踏まえた性能が発揮できるのか。何処でもどんな走り方でもギアコントロールが人の意に沿うことを追求しました」。
パワートレイン開発本部の肥後公則(ひご きみのり)は振り返ります。
結果、肥後たちはドライバーの気持ちを数値化することで、各シーンに応じたふさわしいギアコントロールの開発に成功。3年におよぶ開発は、ドライバーの意のままのターンイン・ターンアウトをAT車で実現させました。
ドライバーの意思に応じたスポーティな走りをサポートする「アクティブアダプティブシフト(AAS)」の性能も進化した
より深く、より人間の感覚に近いところへ
“人馬一体”の深化は止まらない
最後に、「パフォーマンスフィールの作り込みにおいてマツダは10年前とは比較にならないほど進化しています」と、ロードスターのPT開発を統括・推進する藤冨哲男(ふじとみ てつお)は語ります。
「昔は加速度を基準に考えていましたが、今は一段階深く、加速度をさらに微分して瞬間の動きを追跡する『躍度』を基準に考えています。より深い領域で、人間が感じる部分をスッキリさせているわけです。なんだか運転が上手になったように感じる、なんだか運転しているだけでワクワクしてくる、なんだかクルマが好きになってくる。そういった人間の感覚に訴えかけてくるクルマ、それがロードスターなのです」。
1.5Lエンジンの軽快な“走り感”の長所を取り込んで、爽快な“走り感”の実現に成功した「SKYACTIV-G 2.0」をはじめ、現在のマツダ最高の技術が搭載されたロードスター・ロードスターRFの2018年商品改良モデル。
4回にわたり、その開発の裏側をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
そして、マツダとエンジニアたちの挑戦は、さらなる人馬一体の深化を目指し、これからもその道で歩みを進めていきます。