【潜入取材】たゆまぬデザインの進化を支える、匠たちの「共創」活動
「魂動(こどう)デザイン」の哲学のもと、「美しさ」を追求するデザイナー。
そして、そのデザインを寸分たがわぬ造形で、お客様の手にお届けする、ボディプレスの金型職人。
担当領域を超えてシナジーを生む、匠たちの「共創(きょうそう)活動」の物語をご紹介します。
ときはさかのぼること、数年前・・・
広島にあるマツダ本社・デザインセンターの玄関を入ったところに、両手でそっと持ち上げることができるほどの大きさのオブジェが飾られています。
魂動デザインのモチーフとなるそのオブジェは、デザインチームの面々にとって特別な存在です。
ある時、オブジェのそばにデザインセンターでは見慣れない顔がありました。グレーの作業服を着た彼は、デザイナーではありません。近づいたり離れたり、ときどき目を細めたり。食い入るようにオブジェを観察して、彼はその場を後にしました。
もう1人、別の男性もそこへやって来ました。彼もまた腕を組んだり、ほおづえをつくように暫し考え込むような表情を残して、立ち去りました。
2人は、生産領域でボディパネルの製作を担当する開発者でした。ひとりは金型製作のデータ作成を担う後藤暢映(ごとう のぶあき)、そしてもうひとりは、実際の金型製作を牽引する大塚宏明(おおつか ひろあき)です。
クルマ造りには、設計やデザインのように、理想の数値や感性を追い求めて創造する過程と、完成した理想の一台を実際のクルマとして生産しカタチにする過程があります。
どちらも決しておろそかにできないばかりか、双方が互いに高めあう……すなわち、共創の心が必然なのです。
2人は、デザイナーたちがお客様に伝えようとしている想いを、その創造の魂ともいえるオブジェの中に探しに来ていたのです。
髪の毛の太さの半分の誤差……そこにこだわらなければ、魂動デザインではない
力強く盛りあがり、深く沈み込む造形の連続が織りなす“魂動デザイン”。
その造形を金型に磨き込むことは、熟練の職人たちにとっても難しい仕事でした。
ところが、デザインスタジオに足を運んだ生産部門の開発者たちは、そこでデザイナーが求める驚愕の本心を耳にしました。
40ミクロン、すなわち4/100mmを超える”ズレ“が生じてしまうと、それはまったく違うデザインとなってしまうという事実でした。
4メートルを超える全長のクルマに対しての40ミクロン、1/10万の差異にこだわる造形表現。それが、“魂動デザイン”だというのです。
この難題に取り組むべく、生産領域において新たな活動が始まりました。
魂動デザインの象徴であるオブジェを、「金型と同じ材料の鉄」で再現。
その工程を通して、魂動デザイン実現に向けた金型製作の課題を網羅的に発掘しようという取組みです。
早速、あのオブジェが金型職人たちのもとへ運び込まれました。
鉄のオブジェでデザイナーの想いを表現し尽くすという、デザインスタジオと生産現場を繋ぐ活動は、職人たちにとって多くの学びの機会となりました。
デザイン部門の思い描く面の表情や、曲面の微妙な抑揚が生み出す光の動きの美しさを実現するために必要な、50もの技術・技能課題を洗い出したのです。
そして、これらを解決する中で、以下の新たな技術・技能を生み出しました。
・クレイモデラーが立体を造り出す手の動きを機械加工に置き換えた「魂動削り」
・出来上がった加工面を5μm(ミクロン:1/1000mm)以下の精度で磨くことができる「魂動砥石」
・抑揚のある面の造形を崩さずに際立たせる「魂動磨き」
(写真左:砥石(といし)で金型を磨き上げる職人、写真右:改良後(上)と改良前(下)の砥石)
これらの技術を用い、実際にクルマの金型製作において、どのように魂動デザインを実現したか事例をご紹介します。
金属には素材由来の弾性があり、鉄板を曲げて変形させても、元の形状に戻ろうとする力が働きます。クルマを造るときも同じで、0.65mmの鉄板を、1,000トンもの力で金型に挟み込んでプレス加工しても、金型が離れた瞬間に、わずかに形状が戻ってしまいます。
出来上がったボディを解析してみると、デザイナーが求める造形に対し、わずか70ミクロン(0.07mm)ほど、形状が一致しない部分があることがわかったのです。
わずか70ミクロン。しかし、魂動デザインには致命傷です。
そこで、ボディパネル製作に携わる開発者は、この現象を見越した造形を金型にあらかじめ盛り込むことにしました。
コンピューターによる解析結果を織り込んだ金型を、「魂動削り」で精密に再現し、その造形を崩さないように、金型職人たちが「魂動砥石」「魂動磨き」により、細心の注意を払って金型を造り込んでいくことで、魂動デザイン実現に取り組んだのです。
このように、マツダ車のボディパネルは、金型と金属パネルの関係を知り尽くしたマツダの職人たちの手から生まれてきていると言っても過言ではありません。
理想の1台を共につくろうとする心こそ、マツダのクルマ造り
これらの、デザイン部門と生産部門の共創活動は、マツダの新たな開発プロセスとして、今も継続しています。
そして今もなお、後藤や大塚らは、デザインスタジオに足を運んでいます。クルマ造りを進化させ、究極の1台をお客様のもとにお届けするために…。
それは、進化と言うほどのレベルではなく、些細な変化かもしれません。しかし、彼らだけでなく、クルマ造りに携わる全ての人たちが、同じ想いで取り組んでいます。
マツダにとっての“クルマ”は、魂を注いで業務に取り組む造り手たちのロマンそのものなのです。
ですから、デザイナーの想いを表現し尽くすべく金型を造りこむ現場や、その金型を使いプレス機が大きな音を立てて鉄板を打ち抜く現場。そして、打ち抜かれたボディパネルが一台のクルマへと組み付けられる現場、それらすべてを、私たちは工場ではなく、“工房”と呼びたいとさえ思うのです。
(写真:ボディプレス金型の加工機械)
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました!
▼金型製作の匠について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
~マツダのデザイン革命を1000分の1ミリで支える最後の砦~
https://blog.mazda.com/archive/20150804_01.html (公式ブログ)