【東京モーターショー TAKERI編 インタビュー前篇】マツダ雄(TAKERI)チーフデザイナー玉谷さん
【TAKERIデザインのポイントは、「意志の強さ」と「信頼感」。
TAKERIをひと言で表現すると、「デザインテーマ“魂動”をベースに、マツダらしい突き抜けたスポーティーさと品格・艶を併せ持ったCDセダン」です。
TAKERIのデザインで注力したポイントは、「意志の強さ」「信頼感」を表現すること。
造形からカラーコーディネーションに至るまで、男性的な強さを持つ表現とすることで、普通のセダンにはありえないぐらいの魅力が詰め込まれているクルマにしたいという想いで造りました。
マツダが表現したいモチーフは、大地を駆けるチーター。
TAKERIの男性的な力強さや色気を表現していく上で、イメージしたのが「チーター」。
チーターのスピード感や無駄の無い筋肉、俊敏さ、獲物を追いかけているときの集中力、そういう研ぎ澄まされたものが、今、マツダが表現したいものに近いと考えています。
例えばライオンもネコ科の肉食獣ですが、重量級のどっしりとした動きというのは、マツダのDNAとして表現するものではありません。そういう選り分けをしていったときに、チーターは自分たちの中にすんなりと入ってきました。
こだわったのは、エモーショナルでダイナミックなショルダーの動き。
TAKERIのショルダーには、普通のCDセダンにない、躍動感のある3本の線が走っています。
その3本の線に違和感がなく、魅力的に見せるためには、実は全体の基本的な骨格はガッチリと押さえが効き、意図を持ったバランスが整っていることが必要なのです。
※画像の白い曲線が3本の線
それを実現するには2つの理由があります。ひとつめは、立体的な抑揚を統制するように、フロントからリアまで串に刺したような1本の軸を通していること。
もうひとつは、クルマの骨格が、止まっていても前に動き出しそうに見えるようにバランスさせていることです。ボディに対してキャビンを後ろに引くことにより、溜まった力がグッと前に押し出されるようにコントロールをしています。
そして最近意識していることは、全体の美しさとディテールの強さのコントラスト。
例えば、競走馬を遠くから見ると、すごく均整が取れていて美しい。でも近寄ってみると、筋肉の隆起や骨格の力強さといった、生命感のある立体の強さや迫力を感じます。
TAKERIも、遠くにあるとセダンとして非常に端整で流麗な印象を感じさせ、近くに寄るとフロントもリアも非常に強い表情を見せる、そういう両方を併せ持たせることにこだわりました。
SHINARIからTAKERIへ。決して単純な作業ではありませんでした。
大きな空間の中でダイナミックにラインを使っているSHINARIをCDクラスのサイズにまで凝縮していく場合、単純に縮小できるわけではありません。
SHINARIと同じようなラインが3本通っているようにしていますが、始点も終点も、リズムの取り方も違っているので、すべてゼロから考え直さなければなりませんでした。
CDセダンは歴史の長いボディ形状で、普遍的なバランスがある。それを外してしまうと異端になってしまうので、その範疇をキープしながら、今まで見たことのない新しさと魅力を引き出す絶妙な匙加減、最終的なバランス感覚が一番難しかったところです。
モデラーの手により、練り上げられた面造形が「艶」を生み出します。
「艶」は、マツダデザインの中では面質において歴史的に表現してきているものです。
TAKERIでは、非常にシャープで能動的な動きを表現していく中で、ラインだけではなく、ラインとラインの間に存在する全ての面をコントロールし、最終的には、そこに映りこんでいく光の動きの流れにまで注力して練り上げました。ラインでデザインするのではなく、立体や面でデザインし、その練り上げた面から生まれる熟成感こそが「艶」だと考えています。
TAKERIをターンテーブルに載せて回転させ、そのノーズからショルダー、そしてデッキエンドへと、表情や速さを変えながら映り込み、流れてゆく光や反射を見ていただくと、このことが良く分かっていただけると思います。もしこのTAKERIが街角のコーナーを曲がったとしたら、その面には、周囲の景色が躍動的にリズム感を持って美しく映り込むはずです。クルマにあわせて動く、その映り込みがつややかに見えるようコントロールしているところがポイントです。ここにはマツダの誇るモデラー勢が大いに力を発揮してくれています。
面造形が活かされる、念願の「赤」。
ボディカラーの「赤」は、マツダがずっと世に出したかった色です。
デザイン本部長の前田も「この色がRX-8の時に欲しかったのに!」と言っていたほど。(笑)
面の微妙な表現は、色によっていかようにも変わってしまうので、造形とのマッチングが重要です。
今回の「赤」は、光の当たる部分からハーフトーンの部分、影が映る部分まで、すべて光の妙味が表現できるので、私たちが造形した大胆で微妙な面調整が強調され、情熱的に映っています。
TAKERIが似合うシチュエーションは、「人」が感じられる場所。
TAKERIは、造形自体に強さやドラマティックさがあるので、ダイナミックな大陸の景色、ヨーロッパの石畳、蚤の市といった人の生活を感じられるシーン、近代的で都会的な街中など、人が培った文明があるような場所なら、どんな風景でもマッチすると思います。
日本で例を挙げると、京都にある日本の古い建築のように、動きが少なく緊張感がある空間の中では、TAKERIのショルダーが持つ抑揚感が、コントラストとなって映えるように思います。
クルマだけを置くのではなく、そこに人がいて、いっしょにライブな絵が撮れたら、すごく嬉しいですね。
東京モーターショーで、TAKERIをうまく撮影するコツをお教えします。
TAKERIは、近寄りすぎるとパースがかかり、クルマ全体で醸しだしている魅力が撮りにくくなるので、できるだけ距離を置いて、クルマの骨格がわかるような写真が撮れればいいですね。
クオータービューはちょっと離れて撮ってもらうと、フロントもリアも非常に良いですし、サイドビューはサイドの真正面というより、ちょっとフロントかリア寄りのサイドから、全体の伸びやかさを掴んでいただければ、かっこいい写真が撮れると思います。
ただ、TAKERIの「赤」は、写真では色味を出すのが非常に難しいので、やはり実際に肉眼で見て、色の深みや艶やかさを楽しんでいただきたいですね。
後編に続く・・・