「コンマ1秒の動作を改善するために」~ヘッズアップコクピットの目指す姿とは。
走る歓びを革新したスポーツコンパクト 新型『マツダ アクセラ』。
スカイアクティブ テクノロジーが生み出す、クルマを意のままに操る感覚の裏には、幅広い部門の人々が関わっています。これらの開発に携わったエンジニアの生の声を通して、究極のクルマづくりを極める姿をご紹介するシリーズの第二弾。
今回は、安全に運転に集中できる環境づくりを目指す「ヘッズアップコクピット」の開発をご紹介します。
「ヘッズアップコクピット」とは
マツダは、これまでにも運転に集中できるHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)を作ってきましたが、新型アクセラの開発タイミングで、改めてこのHMIを再点検しました。そして、走行安全最優先で開発されたHMIを持つコクピット「ヘッズアップコクピット」が誕生したのです。
人とクルマ、そして外の世界へとつながるために導入された、新世代コネクティビティシステム「MAZDA CONNECT(マツダコネクト)」の開発と並行して研究された「ヘッズアップコクピット」。
この設計を担当した車両開発本部の藤原明広(ふじわら あきひろ)さんは、構想のスタートをこう振り返ります。
「スマートフォンやタブレットが普及し、ソーシャルメディアの輪が広がっていく中で、インターネットを経由してさまざまなコミュニティとつながりあうのは、世の中では当たり前になっています。この当たり前の行為を、運転中も安全に楽しめるクルマの実現を目指して、マツダが考えだしたのが『MAZDA CONNECT(マツダコネクト)』で、その過程で『ヘッズアップコクピット』構想もスタートしました。」
安全を阻害する要因の洗い出し
藤原さん以下、設計チームが、実研チームと試行錯誤を重ねながら構想をつめる中で、最初に着目したテーマは、「人間にとって、理想のインターフェイスはどうあるべきか」とういこと。そのために、不安全リスクを最小限に抑えることのできる因子(原因)を、コントロールできるものと、できないものに整理しました。そうすることで、運転中に、安全を阻害する要因を無くすことを導きだしました。
米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が定めた「安全を阻害する要因」はこちらの3つ。
①前方道路から“心”が離れる際の不注意状態
②前方道路から“目”が離れる際の不注意状態
③ステアリングから“手”が離れる際の不注意状態
つまり、心が離れたり、目が離れたり、手が離れたり…どの阻害要因も、時間にすればわずかコンマ1秒の出来事でしかありませんが、そのコンマ1秒を誤って、ブレーキを踏むタイミングが遅くなれば、車は衝突する危険性を秘めています。
そこでまず着目したのは「ディスプレイの位置」です。位置を変えることで、どのような効果があるのか、論文や資料を何度も読み返して検証。さらに、わき見を最小化するディスプレイ位置を具体的な数値で弾き出し、理論検証を重ねました。そこからさらに、理論的に導いた「最適な位置」を検証する実験を繰り返しました。この研究では、日本人、欧米人、男性、女性など、車に乗る様々な人達の体格データを想定した検証も実施しました。
(右写真:操作時のわき見を実車にて検証している様子)
仮説に基づき「リモートコントロール」を採用
そこで、心・目・手がもたらす不注意状態の解消には、「運転に必要な物と、そうでないものに分けるべき」「溢れかえる情報をシンプルにすべき」という仮説を立てました。
この仮説に基づいた検証を、実験研究を担当した松尾純太郎(まつお じゅんたろう)さんはこう語ります。
(右写真:ステアリングから自然に持ち替え操作ができるコマンダーの配置を検証)
「仮説を基に、スマートフォンが普及しタッチパネルが主流となっている今、あえて『リモートコントロール』の導入を計画しました。パネルから離れていても、あたかも自分が手で触っているような感覚をもつ「手とカーソルの一体感」。手元を見ることなく操れるコマンダーコントロールによる操作の一体感にこだわって、研究を重ねました。パネルやコマンダーに織り込んだ工夫は数えきれませんが、一例として、ディスプレイのタテ型のリストの中に、あえて曲線を付けることで、手元の回転させる動きとの連動を感じるよう工夫されています。」
世界中のドライバーを安全に、そして快適に
こうした努力と試行錯誤の積み重ねで開発された「ヘッズアップコクピット」によって、センターパネル部分にオーディオなどが無い、普通車の中では革新的なシステムを実現。これは、機能面だけでなく、デザイン上の自由度も増加し、より質感高いコックピット空間を可能としました。実用化を前に、藤原さん・松尾さんが抱いていた不安。
それは、「世界中のドライバーたちに受け入れてもらえるのか?」。
世界各国のメンバーとともに、その検証をすべく、実際にアメリカに飛びました。一般の人にも実際触れてもらいながら検証を重ね、やっと実用化に辿り着きました。
(右写真:アメリカ合衆国の一般道路テストの様子。4つのカメラで、視線の動き、手の動き、道路状況、パネル表示を確認)
今回ご紹介した「ヘッズアップコクピット」の概念は、新型アクセラ以後の新型デミオやCX-3でも活かされています。
「常にユーザーのみなさまの声に耳を傾け、技術を革新していきたい。そして、お客さまに安全に走る歓びを感じていただけるクルマづくりを続けていきたい。」藤原さんと松尾さんは口を揃えて、志をこう語りました。
マツダの考えるHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)を動画でご紹介していますので、こちらもご覧ください。
▲マツダ新型アクセラ 開発ストーリー「マツダの考えるHMI」