魂は細部に宿る ~マツダのイノベーションは、熱い志の連携と継承から~
「新型CX-5には、外からは目に見えない部分にも、数えきれないほど多くの新技術が投入されています。乗って運転していただければ、きっと実感してもらえるはずです。」
そう自信を持って語るのは、三橋 誠(みつはし まこと)。
(写真左:新型CX-5のドライブトレイン開発を担当した三橋)
新型CX-5には、多くの新技術が投入されていますが、AWD車(全輪駆動車)のPTO(Power Take off)内に採用されているボールベアリングも、その一例。
専門用語が多く難しいかもしれないので、図やイラストを交えて、説明しますね。
ボールベアリングとは
「PTO」とは、エンジン側のトランスミッションに付いている部品(下左図)のこと。エンジンから動力を取り出す役割があります。
そして、このPTOの中心あたりにある部品(上右図の赤枠部)にベアリングという、軸を支える部品が設置されています。
このベアリングには、「テーパーローラーベアリング」と「ボールベアリング」の2種類があり(下の表)、これまでは、円筒状の「テーパーローラーベアリング」を使用していました。
(表:テーパーローラーベアリングとボールベアリングの構造の違い。ボールベアリングの方が、損失要素が少なくなる。)
それを、接触面が少ない球状の「ボールベアリング」に変えることで、損失要素を減少することができました。
「ボールベアリング」にすることで、低抵抗化、熱の発生量抑制、オイル量の少量化、機構の小型化、重量の低減・・・
そして低燃費化と、連鎖的にメリットが生まれてくるのです。
一見、部品を変えただけ・・・ に見えてしまいそうな、この変更。
そう簡単ではなかったそうです。
ボールベアリングを検討するには、まず周辺部品にどのような影響があるかを把握する事が一番の課題でした。
ただし、ボールベアリングを組み付ける部品は高速に回転するため、すぐに対応する事が難しいとわかりました。
計測解析チームが思案する中、思い出したのが、マツダ社内で脈々と続く「伝承塾」の活動でした。
(写真:ボールベアリング採用の是非を検討するための計測をどうやって行うのか、意見交換を行う)
熱い志をもとに始まった「計測技術 伝承塾」
マツダのクルマづくりへの熱意を物語るものの一つが、「計測技術 伝承塾」。
開発段階における様々な計測技術に関するノウハウや情報を、部門横断的に共有・継承する活動です。
(写真:計測技術にこだわり、「伝承塾」の発起人となった『計測の匠』こと高椋清美(たかむくきよみ))
「熱・圧力・振動・歪みなどの現象を、客観的な数値に置き換えるのが計測。まず測らなければ、創造も変革もなく、何も始まらない」
そう語るのは、計測技術に熱い想いを抱く、パワートレイン開発本部計測解析チームの高椋清美(たかむく きよみ)。伝承塾の仕掛け人です。
(写真左:計測準備の作業場に掲げられている『測らなければ創造も変革も無い』の標語は、高椋書。)
「先人たちが培ってきた技術を大切にしつつも、異なる領域や社外の技術・情報も積極的に取り入れて共有する。それによって、全体のレベルを高めてマツダの資産として次世代に引き継ぎたい」
という思いから2008年にスタートしました。
各部門から有志が集まり、計測技術についての知識や情報の共有を図る「伝承塾」特別活動。
現在はベテランから若い世代へと運営を受け継いでいます。
連携して高めた技術力で新たな開発を推進
「部門の垣根を越え、実際に活動するとなると調整ごとも多くなり、最初は不安でした」
そう語るのは、高椋と一緒に伝承塾を立ち上げて事務局を運営している吉田 裕将(よしだ ひろまさ)。
(写真左:「伝承塾」立ち上げ時の苦労を懐かしくも嬉しそうに語る吉田)
「とはいえ、10年近い活動で様々な成果が出ていますし、伝承塾の活動を起点に、サプライヤーさんと共同で新しいセンサーの開発もスタートするなど、イノベーションにもつながっています」と、活動の意義を語ります。
各部門が持つ知識や情報を共有し、互いに高め合うことで、より高次元の開発を行う。
こうした熱意あふれるマツダの組織・風土が、新技術を次々に生んで、新型CX-5をはじめとするクルマづくりを支えているのです。
伝承塾での知見が新技術採用をサポート
ボールベアリングの採用にあたって課題となったのは、周辺部品にどのような影響があるかを把握する事でした。
そこで吉田が思い出したのが、伝承塾で聞いた「超小型データロガー」という極小の計測機器。
超小型データロガーは、非常に小さなサイズでありながら「高速回転体の計測を容易に実現する」大容量のデータ収録装置です。
(左写真:超小型ロガーを使用し、ボールベアリングの計測を行う様子)
試行錯誤する中、超小型データロガーの計測は成功し、ボールベアリングの採用が無事決定したのです。
(写真:計測試験・解析の繰り返しで、信頼性の高い新技術が生み出されていく。)
こまやかな進化の集大成「新型CX-5」
CX-5開発の裏側には、わずか1gの軽量化、たった1%の低抵抗化を、愚直に追求するエンジニアの姿がありました。
熱い志と、その情熱を共有しながら次世代へとつなげる伝承の心。「計測技術 伝承塾」活動に代表されるリレーションシップが相乗効果を生み、チームとしてのパワーとなって新しい技術を生み出しています。
伝承の心。
それは、マツダのクルマづくりにおける新たなアイデンティティと言えるかもしれません。
▲【マツダの匠】なぜマツダは計測にこだわるのか(前編)
https://blog.mazda.com/archive/20150310_01.html
▲【マツダの匠】 なぜマツダは計測にこだわるのか(後編)
https://blog.mazda.com/archive/20150324_01.html