MAZDA BLOG
2015.7.28

【マツダの匠】衝突実験、その一瞬にかける匠たちのこだわりと挑戦(後編)

マツダのクルマづくりに息づく伝統、主義、思想、そして技能。それらを受け継ぐ匠の志や情熱を紹介する連載企画『マツダの匠』。第6回目は、衝突実験を支える「ダミーセットの匠」を紹介します。

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7日間の準備を一瞬にこめる

TVなどでよく目にするクルマの衝突実験映像。一瞬で終わるそのシーンの裏には、入念な手間と時間がかけられています。一度の実験に向け、その準備に要する期間は約7日間。実験全体の仕様検討から、ダミー人形の選定、車両の準備、計測機器のチェックやセッティングにいたるまで、綿密に打ち合わせられた複数のプロセスを経て実験当日を迎えます。
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(写真:すべては安全性を検証する正確なデータを得るため。実験には10~13人以上が携わる。)

 

そこにはないグリッドが見えてくる

前編で紹介した、検定を終えたダミー人形が、いよいよ実験車両に載せられます。ダミー人形の設置は、単にシートに置けばいいだけでなく、実はミリ単位というとてもシビアな条件で、姿勢と位置が決められています。

一瞬で大きな力が加わる衝突実験には、法規等で決められたmm単位の試験条件の基準があり、その基準に沿って正確にダミーをセットする技術が要求される、経験と技が必要とされる大切な工程なのです。

このダミーセットの領域で、「技術は誰にも負けない」と胸を張るのは、マツダE&Tの竹口和彦(たけぐちかずひこ)さん。ダミーセット時には「クルマの中に、そこにはないはずのグリッド(指標となる格子状の線)が見えてくる」というほどセッティング技術に精通する竹口さんは、まさにダミーを操る匠。
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(写真:ダミーセットに絶対の自信を誇る竹口。常に初心を忘れず弛まず現場に向き合う。)

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(写真:「ダミーのヒップ部分を動かす時は、ヒップではなく頭部を操作する」と竹口さん。ミリ単位でダミーをあやつる。)

 

わずかな環境差も許されない

ダミーセットは、ダミーの保管や検定と同様に、温度や湿度が厳重に管理された環境下で行われます。これは素材に使われているゴムの固さや関節の動作抵抗を一定に保つため。わずかな環境差も許されません。
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(写真:温度や湿度まで徹底管理された実験空間には常に緊張感が漂う。)

ダミーセットは、まず実験車両のシートにダミーを座らせることから始まります。しかし、そもそも成人男性サイズで一体約75kgもあるダミーを狭い車内に入れるだけでも、体得したノウハウなしでは簡単にはいきません。

通常のルーフがあるクルマでは、ダミーを上から斜めに吊り下げ、振り子のように移動させて座らせます。その後、三次元計測機(車両の寸法データから、車内の任意の空間位置を測定する機械)を使いながら、ダミー各部の位置をミリ単位で定めていくのです。
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(写真:座らせるだけでも多くの人員と機材を要する。)

 

狭い車内でコツコツと

一体のダミーで位置を定めるべきポイントは、多い時では数十箇所。
つま先の位置、ヒザや腰の角度まで測定するのはもちろん、時間とともにダミーの重みで沈んでいくシートの座面や、法規にしたがって着せているシャツ一枚の厚みといった微妙な影響も考慮。すべてのポイントでプラスマイナス数ミリ以内という誤差範囲でセッティングを行うのです。

気が遠くなるような作業ですが、「仕様決定やダミー検定など、さまざまな人の思いを考えると、ここで妥協するわけにはいきません」と竹口さんは語ります。

その情熱が糧となり、当初は一体に約2時間かかっていたダミーセットも、13年目を迎える現在では1時間以内に短縮。自由のきかない狭い車内での作業を通じて、コツコツと自分なりの「技」を身に付けてきました。
例えば「ダミーのヒップ部分を動かす時は、ヒップではなく頭部を操作する」といった技術は、日ごろからダミーの仕組みを研究しているからこそ体得できたものでしょう。

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(写真:ダミーセットは想像以上に神経をすり減らす作業。)

 

安全が当たり前として存在するために

クルマの安全性に対する意識の高まりから、衝突安全性能と実験評価を取り巻く状況は目まぐるしく変化しています。世界的にも、実験評価すべき衝突モードや使用するダミー等はますます複雑になっており、実験を行う回数はどんどん増える傾向にあります。

「成否を左右するのは、個々の専門技術とチームワーク。すべての作業は、こだわり抜いた緻密さを伴います。しかもそのクオリティを保ったまま、各担当がミスなく連携することが実験の大前提になります。」
そう語るのは、実験を統括する衝突性能開発部の岩本竜彦(いわもとたつひこ)さん。
各分野の匠がそれぞれの高度な技術を一瞬にこめることが、実験の成功を支えています。

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(写真:複数の匠が一瞬の実験に高度な技術をこめる。)

そうした動きに真摯に対応し、マツダのクルマの安全性とお客様にお届けしたい安心感、そしてブランド力を縁の下で支える衝突実験の匠たち。安全が当たり前として存在するために、日々の研さんが続いています。
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▲【マツダの匠】衝突実験、その一瞬にかける匠たちのこだわりと挑戦(前編)
https://blog.mazda.com/archive/20150618_01a.html

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▲マツダ公式ブログ「匠」まとめ
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