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2016.1.6

魂動デザインを引き立てるアンテナとは ~シャークフィンアンテナ開発にかけるエンジニアの想い

ルーフ後端にピョコンと付いた、羽のような部品。

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この部品は、ラジオ放送を受信するためのアンテナ。

外観が「サメのヒレ」のように見えることから「シャークフィンアンテナ」と呼ばれます。

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アンテナの役割はラジオ放送の電波を的確に受信することですが、求められる要素はそれだけではありません。デザイン、大きさ、そして性能と、想像以上に複雑な要求に応えて開発されているのです。

今回は、このシャークフィンアンテナに込められた開発者の想いと秘密に迫ります。

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シャークフィンアンテナの誕生

かつてのクルマのラジオ用アンテナといえば、フェンダーやピラーの部分に金属製の長いアンテナが収納されていたことを思い出す方もいらっしゃるでしょう。このアンテナの長さは、引き伸ばすと全長は約90センチもありました。これを短くし、クルマのルーフ上に設けたのがルーフアンテナ。ルーフアンテナも徐々に小型化し、今では随分とコンパクトになっていますが、依然として洗車や駐車の際に、取り外したり折り畳んだりする手間が必要です。

そこでクルマのデザインを邪魔せず、さらに機能性を追求したアンテナを狙い考え出されたのがシャークフィンアンテナなのです。

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(写真左:1971年サバンナ・クーぺ(ロッドアンテナ)、写真右:2014年デミオ(ルーフアンテナ))

 

アンテナに求められる過酷な要求

シャークフィンアンテナの利点は、スッキリとした外観でクルマのデザインに違和感を与えないこと、走行時に風切り音を発生しないこと、そして外したり畳んだりする必要がないこと。さらに、アンテナの複合化(複数の受信装置を一つに組み込むこと)にも対応しやすくなります。

そんないいことばかりのシャークフィンアンテナですが、アンテナとしてきちんと機能させるためには、技術的なハードルが幾つもありました。

「クルマの受信環境は、決して理想的とは言えません」

電波を使った技術開発に25年携わるアンテナのエキスパート、重田一生(しげた かずお)さんはこう語ります。

車載アンテナに求められる性能要求は過酷です。車内外で発生する電気的ノイズや、山間部やビル街など複雑に変化する電波環境の中を高速で移動しながら安定した受信を続ける。それが車載アンテナに課せられた役割なのですから。

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(入社以来電波を扱ってきたアンテナのエキスパート、車両開発本部の重田さん)

 

マツダ初のシャークフィンアンテナ

マツダで最初にシャークフィンアンテナが採用されたのは、2012年に発売が開始されたCX-5。

「実を言うと、CX-5にシャークフィンアンテナを使うと決まったのは、量産開始の1年前なのです。通常は3年かけるところなのですが。」と重田さんが振り返るように、量産に向けた開発は急ピッチでした。

まずは受信感度を確保しながら、高さを低くすることが最初のハードル。シャークフィンアンテナは取り外しができないため、クルマの全高がアンテナの高さで決まってしまうからです。そこで打開策として、従来は棒形状だった部品を渦巻きコイルに変え、電子基板で受信部を構成することを思いつきました。そして受信信号は、アンプと呼ばれる部品で増幅してラジオ本体に送ります。

「すでに先を見越して技術開発は進めていましたので、その蓄積が活きましたね。」(重田さん)。そうして生まれたマツダ初のシャークフィンアンテナが、CX-5に搭載されて世に出て行ったのです。

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(写真左:電波を受信する電子基板、写真右:マツダ初のシャークフィンアンテナ搭載したCX-5)

 

国によって違う、アンテナの中身

実はアンテナの内部は、使われる国によって異なっています。

一番大きく違うのは、北米向けのアンテナ。国土の広大なアメリカやカナダでは、衛星ラジオ放送が広く利用されており、その電波の受信部を別に組み込む必要があるからです。ところが、アンテナのボディ自体は複数の車種に搭載される共通部品で、当然、海外向けの車両にも同じ形のものが取り付けられます。

車両開発本部でアンテナの量産領域に携わる志村俊幸(しむらとしゆき)さんは、「アンテナは、仕向地ごとに違う仕様を一つで満たさなければなりませんので、それを念頭に開発を進める必要があります。」と言います。したがって、組み込むべき部品を全て想定して、それらが収まるように設計しなければなりません。ここにもエンジニアの苦労と工夫があるのです。

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(写真左:黄色の四角い部品が衛星ラジオ放送を受信、写真右:車両開発本部の志村さん)

 

さらなる要求に応えてゼロから見直し

CX-5にシャークフィンアンテナが採用され、次にCX-3に向けて開発が始まりました。CX-3はCX-5に比べてコンパクトなボディということもあり、アンテナもさらに小さくすることが求められます。高さはすでに技術的な限界まで削っていましたので、アンテナ前面の斜面部分をより深く削り、スマートにすることが課題でした。

「斜面にあたる部分には電波を受信する基板が入っているので、どうしても削るわけにはいきません。そこで基板に変えて、またコイルを使うことにしました。」(重田さん)。

基本構造のゼロからの見直しです。短いコイルを低い位置で使用することは新しい挑戦でしたが、より高性能なアンプを使うことで受信性能も確保。こうしてCX-3の凝縮されたボディにマッチするシャークフィンアンテナが生まれたのです。

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(角度が違うシャークフィンアンテナ、左が新型形状)

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(電波を遮断したシールドルーム内で実際の車両を使って受信性能をテスト)

 

魂動デザインとシャークフィンアンテナ

ところで、デザイン面からアンテナを考えるとどうでしょう?

重要なのは、今にも動き出しそうな生命感や躍動感を感じさせる「魂動デザイン」にマッチしていること。アンテナ単体が目立つのではなく、クルマに取り付けた状態で全体のシルエットに馴染んでいるかどうかです。そのため、取り付ける位置も慎重に吟味されます。

「アンテナはボディから飛び出した機能部品ですから、デザイナーからの要求は『とにかく低く、そして小さく』が至上命題です」と志村さん。

とは言え、電波を受信する上で、ある程度のスペース確保も必要。そこで起きるのが機能とデザインとのせめぎ合い。言い換えれば、エンジニアとデザイナーの理想の衝突です。

「大切なのは、エンジニアもデザイナーも、その理想を共有すること。そのためのディスカッションは惜しみません。」

お互いの理想に向かってアイデアを出し合うことによって、機能もデザインも両立したアンテナが生み出されます。例えば、技術的限界で高さが決まっている場合、全長を長めにとってスピード感を出し、後ろから見られた時にもバランス良く見えるよう、広げるべき部分は広げて接地感を演出する、などの工夫も。

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(デザイナーとのディスカションで理想を追求)

 

車載アンテナの将来とは

シャークフィンアンテナは、現在の形で完成形ではありません。さらなる技術進歩によって、より小さく目立たなくなることが考えられます。またその一方、現在のラジオ受信を中心としたアンテナから、もっと多目的な複合アンテナへの発展も予測されます。

すでに実績のあるGPSをはじめ、携帯電話網を利用したテレマティクスサービス、車間通信及び路車間通信(V2X)を利用した運転支援等の装備が一般化してくれば、双方向で情報をやり取りするアンテナが必要になるでしょう。それらを一つのパーツに融合した新しいアンテナの形が生まれてくるかもしれません。

理想を追求し、そして時代のニーズに合わせて変革を続ける。

アンテナ一つにもこだわりと想いを込める。マツダのクルマづくりに終わりはありません。

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