【ついに完成!】50年前の名車コスモスポーツ復元の軌跡
皆さん、「レストア」という言葉を聞いたことはありますか。
レストアとは、古いクルマの修繕作業。動かなくなった古いクルマを分解、修繕・修復し再び街を走れるようにすること。
マツダでは2015年2月に若手社員20名の有志が集いレストアプロジェクトを発足しました。
なぜ動かなくなったクルマをわざわざ分解までして復元するのか。それはレストア作業を通して、生産当時の哲学や思想を現在のマツダ社員が直接肌で感じられるから。
社内に脈々と伝わるスピリットを理解し、次世代に伝承していく役割をこのプロジェクトが担っているのです。
そんなレストアプロジェクト第一号に選ばれたクルマはコスモスポーツ!
今から約50年前の1967年に発売され、世界初の量産型2ローターロータリーエンジンを搭載したスポーツカーとして多くの人を魅了したクルマです。
進捗をレポートした前回のブログでは、エンジン搭載の瞬間、いわばコスモスポーツに命が吹き込まれる瞬間をご紹介しました。
そして、今回はいよいよ完成編です。
▼前回の記事
コスモスポーツレストアを通じて肌で感じるマツダの歴史 ~地域一丸となって過去から未来へ繋げる哲学と思想~
https://blog.mazda.com/archive/20160115_01.html
トラブルは当たり前
レストアは一般的なクルマの整備や修理とは、必要な技術や部品、解決策の導き方が全く異なります。そのため作業にトラブルはつきもの。
クルマの足回りを修繕するシャシーチームも、左右のタイヤをつなぐ車軸の組み付けで、越えられない壁に直面していました。
古くなったオイルシール(車軸に使用しているゴム製品)を交換したことが原因で、ベアリングを締め付ける力が増して車軸が上手く回らなくなってしまったのです。
ベアリングをばらして組み直したり、潤滑油の量を増やしたりするものの、一向に改善の兆しは見られません・・・。
困り果てた若手に見かねて救いの手を差し伸べたのがアドバイザーの木下さん。
入社から数十年 、フルタイム四駆のファミリアや歴代ロードスター、三代目RX-7など名だたる車両の実験や研究に携わってきた車両の達人です。
すると、さすがは達人。アジャストシム(薄い鉄板で出来たリング状の部品)の厚みを増やす必要があるはずだと、あっという間に原因を突き止めてしまいました。
そこで、木下さんのアドバイスどおり0.5mmで製作した新しいアジャストシムを組み込んだ車軸を回してみると・・・これまでの抵抗が嘘の様に軽くなったのです!
若手メンバーが「よかった・・」と心底安堵する一方、木下さんは得意そうに微笑みました。
無いなら作るしかない
レストアならではトラブルをもうひとつ。
ベアリングの圧入手順を間違えたために、ステアリングの車軸側にあるとても大事な部品を誤って破損してしまうという事件がありました。
この部品なしにコスモスポーツは完成しません。とはいえ50年前の部品ですから、代用品も存在しない・・・。ではどうするか?
最初は途方に暮れるメンバーでしたが、「ないなら作るしかない」と、イチから製作することでこの危機を乗り切ったのです。
このようにレストア作業は、時として地図の無い迷宮を進むのに等しく、どの道を選ぶのが正しいのか誰にも分からないことも。
行き止まりにぶつかってもとにかくがむしゃらに前に進むしかなく、部品が無ければ、新しく作ってでも、何が何でも入手する気合いが必要なのです。
技能五輪OBの妙技
ちなみに今回対象となったコスモスポーツは、どうやら悪路を走行していたようで、車体フロア(床面)がとても傷んでおり、フレームブラケットやフロアクロスメンバー等、クルマを補強するための部材も新たに製作する必要がありました。
この部品の製作で活躍したのが、技能五輪の国際大会でも敢闘賞を受賞するなど、マツダの若き匠として世界で活躍する実力者の藤島(ふじしま)さん。
(写真:藤島さん「コスモスポーツのレストアで使用する部品の製作ができて大変光栄です」)
彼の技術で特に注目すべきポイントは製作に必要な鉄板を折り曲げる工程にあります。鉄板は折り曲げによって伸び縮みするので、折り曲げる位置を間違えると精度の高い製品にはならないのですが、この伸び縮みを考慮しながら完成品の寸法誤差を0.5mm以内に抑えるという妙技を披露してくれました。
完璧に仕上がった部品を前に、技能五輪優勝経験者としての自信が伺えました。
さて、こうして約1年の作業を経て、ようやくすべての工程が完了。
シャシー担当チームのリーダー岡和田さんは完成した車体を見ながらこう語りました。
「このプロジェクトでは、多くの社外の方、そして普段はつながりの無い幅広い部署のメンバーに助けてもらいました。突然壁にぶつかって、もしかしたらダメなんじゃないかと思うこともありました。
しかし、どんな時でも仲間が助けてくれる。そうやってチーム力で乗り越えて完成したコスモスポーツを見ると感慨無量です。この1台は、一生忘れない1台です。」
(写真:1年間の苦難を乗り越え、とても誇らしそうな岡和田さん)
地元の皆さまの前でアンベール
そして、待ちに待った1月31日の「Mazda OPEN DAY 2016」。
いよいよコスモスポーツの完成式典とお披露目会の開催です。
会場となったマツダ本社ロビーには、近隣にお住まいの皆さまを始め、ご協力いただいたサプライヤーの皆様など、なんと総勢約150人がご来場。
カウントダウンで、小飼社長とレストアメンバーがアンベール!
見違えるほど美しくなったコスモスポーツが姿を現すと、会場は大きな拍手で包まれました^^
当日は夏休み特別企画「体験!コスモレストア」で、レストア作業を手伝ってくれた、地元広島市立広島工業高校の自動車部の高校生も駆けつけてくれました。
(写真:自分達が実際に作業した部分を特に興味深そうに観察する地元広島市立広島工業高校の自動車部の高校生たち)
興奮気味に語ってくれたのは、ファーストライドで小飼社長の隣に座った3年生の花谷隼人さん。
「感激しています。夏休みに参加させていただいたレストアで一番印象に残っているのは
最初ボロボロだったメッキが、顔が映るくらいにぴかぴかになったこと。」
と、フロントバンパーのメッキ部分を指さしながら作業当時の気持ちを振り返ってもらいました。
「壊さないように、丁寧に、大事に取り扱うようにしました。すごく楽しめました。みんなに車に興味を持ってもらえるように、こういう昔の車を見せるような企画って重要だなと感じました。」
花谷さんは、卒業後は自動車関連メーカーに就職が決まっているのだとか。マツダで感じ学んだことを胸に、自動車産業で活躍してくれることを期待しています^^
(写真:「電流計なんてあるんですか!」と助手席で目を輝かせる花谷くん)
アンベール会場にはもちろん、ファンの皆さまも来てくださいました!
その中の一組。とても楽しそうに見学されていた、重永さん・康惺くん親子がインタビューに答えてくださいました^^
「普段乗っているCX-5は運転の楽しさが気に入っています。マツダのものづくりの心はコスモスポーツ~CX-5に共通している、つながっていますね。コスモスポーツの運転席に座ってみてそう感じました。」
(写真:快くインタビューに答えてくれた重永さんと康惺くん。素敵な親子です)
最後に、レストアプロジェクトリーダーの阿部さんは、感謝の想いと今後の抱負を口にしました。
「今日という日を迎えられてほっとしています。先人の想いを体感し、受け継ぎたいとの想いからやってきたレストアプロジェクト。レストアされたコスモスポーツは高校生やサプライヤーのみなさん、プロジェクトメンバーの汗と涙の結晶で、みなさんの努力やサポートなしではここまで来ることはできませんでした。多くのご来場の皆様に運転席に座っていただき、たくさんの笑顔をみられてうれしい。そしてレストアプロジェクトは終わりではなく、これからがスタートです。」
開催された2日間合わせて約700名の方に、コスモスポーツに乗車いただき、皆さん童心に返ったかのような笑顔で、スイッチ類を操作したり、記念写真を撮ったりしていました。
コスモスポーツのレストアと、このお披露目会を通じて、マツダの歴史やモノづくりの心が、たくさんの方々に伝わっていれば嬉しいです。
来月からは、第2弾となる、R360 クーペのレストアが始まります。メンバーを刷新し、新たなるチャレンジが行われます。
新しいメンバーも、きっとたくさんの仲間に支えられながら、レストアプロジェクトを成功させてくれることでしょう^^
コスモスポーツレストアプロジェクト第一弾と第二弾もブログでご紹介しています。
ぜひご覧ください。
▼マツダのDNAを伝承!将来のモノ造りを担う高校生がコスモスポーツのレストアを体験
https://blog.mazda.com/archive/20150903_01.html(マツダ公式ブログ)
▼コスモスポーツレストアを通じて肌で感じるマツダの歴史 ~地域一丸となって過去から未来へ繋げる哲学と思想~
https://blog.mazda.com/archive/20160115_01.html(マツダ公式ブログ)