【マツダの匠】座った瞬間に「感動」するシートを。フィーリング評価を極めて(前編)
マツダのクルマづくりに息づく伝統や思想。それらを受け継ぐ匠の志や情熱を紹介する「マツダの匠」。今回は、“走る歓び”の追求に重要なシート開発を支える「シートフィーリング評価」にフォーカスします。
シートがクルマの印象を左右する
SKYACTIV(スカイアクティブ)技術や魂動デザインを追求する、マツダのクルマ。
「エンジンやシャシーの性能、フォルムの美しさが重要なのは言うまでもありません。しかし忘れてはならないのは、クルマはシートに座って運転するものであるということ。」
シートの重要性を語るのは、「シートフィーリング評価」を長年担当してきた、嶋田正人(しまだ まさと)。シートやシートベルトの使用感、使い勝手全般を統括しています。
「クルマの中で、シートは人と接する面積が最も大きい。つまり心地よさの体感・演出に重要な役割を担うのです」
(写真:「シートフィーリング評価」の匠としてシート開発を支える嶋田)
不満の声を自らの体で翻訳
「フィーリング評価と言っても、個人的な感覚では“良い悪い”を判断できません」
マツダのオフィシャルウェブサイト内「Driver’s Voice」に寄せられる声や、開発段階に海外で実施するテスト走行などで集めた様々な声を、開発に織り込んでいきます。
お客様の声は、「シートが硬い」「腰が痛くなる」といった簡単なもの。
具体的に説明してもらえるわけではありません。だからこそ、寄せられた声を自分の体で感じ取り、具体的に翻訳していく作業が必要なのです。
そこで重要なのが、物理量への転換。つまり、mm単位での長短や起伏、圧力の分布、反発の強弱など、すべてを数値に置き換えて客観化します。同時に、あらゆるパターンでの感覚を自らの体の感覚でつかみ、最善の組み合わせを見つけ出します。
(写真:座り心地を物理量に転換するための下準備。シートに専用のマットを敷く)
(写真:どの部分にどの程度圧力が掛かっているかをくまなく分析)
「1~2mmの違いでもフィーリングは大きな違いとなります。素材を削ったり貼ったりしながら最終的なシートの形を決めていく作業には根気が必要。」
抽象から具体へ。言葉や文字で記すとシンプルですが、1つのカタチに帰結させ、商品化するのは容易なことではありません。
シートは、“人馬一体感”の根源
マツダのクルマは“人馬一体感”を大切にしています。そのためには体の中心を安定させることが必要で、人の体幹をしっかり支え、おへそ周りをブレないように座らせることを重視してマツダ車のシートは作られています。
「ドライバーが体に妙な力を入れず脱力した状態、つまり自然体な姿勢こそが、クルマを最もコントロールしやすい姿勢。ただその状態でも体がフラつくと運転しにくい上に、疲れて楽しさも半減します。」
運転中のホールディング性だけでなく、車に乗り込んで座ったときに体がしっくりシートになじみ、ドライビングポジションが取りやすいことにも気を配っているとか。
静と動、双方でシートに求められる数多くの要件を、高い次元で満たすことがお客様の満足感につながっています。
(イラスト:自然に素早く力を出せる角度である「関節リンク角」。そのヒントとなったのが宇宙飛行士が無重力の宇宙で自然にとる姿勢。この自然に体の力を抜いた姿勢が、素早く次の動作に移る為に重要と考えています。)
従来とは大きく変わったシートづくり
従来の概念や常識をすべて払拭し、クルマのベース技術をゼロから考え直すことに挑戦しているSKYACTIV(スカイアクティブ)技術の取り組みは、実はシート作りにも展開されています。
「以前は、直線を走って疲れないことを基本に、カーブを曲がる時はシートのサイドだけで体を支えるという考え方が土台でした。ですから、ドライバーへのサポートは腰が中心。
それがシート全体で包むようにサポートする構造に変化し、曲がる時に左右にかかる力を腰以外のところでも支える形になりました。ただし、腰の支持を弱めていくと、今度は腰が疲れる。この相反する問題を解決するため、現在は腰をタテ方向とヨコ方向で支える考え方になっています」
疲労の軽減とフィット感の両立が、マツダのシートに隠された秘密の一端です。
協力メーカーとの二人三脚
新型デミオとCX-3のシートは基本的に同じ骨格とパッドが使われており、少しモチモチ感のある新開発の振動吸収ウレタンを採用。このウレタンはキメが細かく弾力性に富んでいて、心地よさが好評です。
「開発当初は硬さ柔らかさの評価がなかなか安定せずに困っていました。ウレタンメーカーさんに相談すると、自社工場内にデミオのシートを置き、自分たちが発泡させたウレタンを実際のシートに組みつけ、自分たちで評価しながらウレタンの育成・調整をしてくださいました。」
微笑みながらそう開発秘話を語る嶋田。同じゴールを向いて協力メーカー様との二人三脚ができるのも、お客様の満足のために妥協せず取り組む嶋田の人柄かもしれません。
(写真:シートの「モチモチ感」を誇らしげに語る嶋田。ちなみに傍らで見守るのは次回(後編)の主役。)
いかがでしたでしょうか。
普段何気なく乗っているシートですが、この話を思い出していただけると新たな発見があるかもしれません。
次回は「シートフィーリング評価」後編。女性ならではの感性と視点で匠をサポートする、若手ホープの想いとチャレンジをご紹介します。
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