MAZDA BLOG
2017.12.6

【マツダの匠】人間の感覚を追求~五感で感じる「走る歓び」(前編)

 

マツダのクルマづくりに息づく伝統、主義、思想、そして技能。それらを受け継ぐ匠の志や情熱をご紹介する連載企画『マツダの匠』。今回は、人間の感覚を研究し、クルマの見映えや操作性を造り込む「クラフトマンシップ開発」の中から質感向上への取り組みにフォーカスします。

 

 

マツダのクラフトマンシップとは?

 

人間中心の開発哲学から生み出されるマツダのクルマには、ドライブ中も車内で快適に過ごすための様々な工夫が施されています。中でもインテリア(内装)の上質さは乗車中快適に過ごすための鍵。そのインテリアの質感を高める領域を担うのが「クラフトマンシップ開発グループ」です。

 

「クラフトマンシップ(Craftsmanship)」とは、一般的には「職人技、技巧」とも訳されるものですが、マツダでは見て触って操作して感じることを人間研究し、良し悪しの判断だけではなく、物の物理特性へ置き換え モノ造りに繋げられるエンジニアと捉えています。

 

このマツダ独自のグループは2001年に発足しました。

 

 

「人々の生活が豊かになり、単に高機能なだけのクルマでは競合力を持つことが難しくなっています。

 

また以前は、欧州車と比べると、質感で差をつけられていたのも事実です。そこでマツダが新たに取り組みはじめた開発領域が『クラフトマンシップ』です」

 

そう語るのは、クラフトマンシップ開発グループの福井 信行(ふくい のぶゆき)。

 

グループの発足当初は広島大学に講義をお願いして、メンバー全員で人間工学を基礎から学び、感性領域の定量化などの技術開発を地道に積み上げてきました。

長年にわたりマツダ全車種の見映えや質感向上に携わってきたマツダの匠です。

 


(写真:「クラフトマンシップ開発グループ」立ち上げメンバーの一人、福井 信行)

 

 

「五感」で感じる走る歓び

 

人間中心のクルマ造りを追求するマツダにおいて、「心地よさ」と「上質」を結びつけるのはデザインだけではありません。「マツダが目指しているのは『五感』で走る歓びを感じられるクルマです」と福井。

 

 

マツダにおける五感とは、

視覚(見映え)

触覚(触感)

聴覚(操作感など)

嗅覚(匂い)

 

そして、味覚の代わりに「体性感覚(操作感、しっかり 感など)」を加えたものを指します。

人間が感じる「心地良さ」や「不快」といった感情は、これらの五感を通して、感覚の統合結果として生まれます。

そしてマツダのクルマはこの五感全てで不快感を限りなくゼロにすることを目標に造られています。

 

「人の感覚は非常に鋭く、ちょっとした不快感や違和感がクルマの良さを台無しにしてしまうこともあります。マツダのクルマの良さをお客さまに最大限に伝えるためにも、質感の向上は綿密に緻密に造り込む必要があるのです」と福井は語ります。

 

 

心地良さを向上させる“触感”の造り込み

 

マツダが考える五感の一つ“触感”は、書いて字のごとく何かに触れた時の感覚のこと。

 

子どもをあやす時に背中をさすってなだめたり、柔らかい布団に包まれた時に安心するなど、触感は私たちの情緒の安定や幸せに深く関わる大切な感覚です。クルマにおいてはステアリング・インパネ・シートカバーなど、乗員が触れる場所すべてに関係してきます。

 

 

「心地良さに繋がる要素を出すには頭で考えるよりも、実物に触れた時の情報を整理することが必要でした。そこでまずは年齢性別の異なる多くのパネラーさんを集めて様々な革を実際に触ってもらい意見を聞くところからスタートしました」

 

そう語るのは、同開発グループで触感の造り込みなどを担当する米澤 麻実(よねざわ あさみ)。

 

2009年から福井の下で質感向上の研究を続けている米澤は、「暇さえあれば何か変わったものを探してきて触っている」と福井に言わしめるほど。

触感の研究に対して飽くなき挑戦を続ける女性エンジニアです。

 

アンケートからわかったのは「しっとり」「なめらか」「やわらか」という三つの感覚が心地良さに繋がるということでした。

 


(写真:触感の開発に携わる米澤)

「私自身、自分の子どもの柔らかい肌を触っている時、幸せな感覚になることがあります。アンケート結果を見たときクルマ造りにもこの感覚を活かせないかと考えました」

 

 

感覚を数値化し設計・サプライヤーと共有

 

人種・国境を越えた「心地良さ」を実現するために、感覚(しっとり・なめらか・やわらか)の定量化を試みました。インテリアに用いる材料の種類などが毎回違う開発の現場では、常に数値化した情報を共有することが大切。

 

福井たちは押す力、撫でるスピード、擦り方など、実際にクルマに触れる時の動きに様々な変化をつけ、計測を繰り返しながら、各部門・サプライヤーに伝えることのできる共通言語を探しました。

 


(写真左:指が感じるしっとり感を測る触覚子)
(写真右:ステアリングの上を滑らせ指の摩擦力を測定する)

 

「感覚と物理量の関係が見えてきた頃に、試作ステアリングを作り、試験場で走行評価をしたんです。しかし結果は想像と違いべたつくなど不評だらけ。散々なものでした。

しかし、そこで手汗のかきやすさとの関係や、革単体とステアリングの形状にした時の感覚変化など様々な誤差要因がわかりました」と笑顔で米澤は話します。

 


(写真左:届いたテストピースを測定機にセットする)
(写真右:革の表面粗さから、なめらかさを測定する)

 

机上の空論だけでなく、実際に現場に出て物を触ることでしかわからないことがたくさんあります。米澤たちは計測方法を変えるなどの試行錯誤を繰り返し、目指すべき触感を追求しています。

 


(写真左:圧縮時に指にどれだけの力が帰ってくるか調べる装置)
(写真右:細かく微調整しながらやわらかさ測定を繰り返す米澤)

 

 

社内一丸で造り上げる心地良いクルマ

 

クルマに触れた瞬間、人が心地良く感じる触感とは何なのか。

その時の感覚や感情を定量化し、モノ造りに反映させるにはどのような計測技術が必要なのか。

 

福井たちはデザインや設計、生産部門とも社内タッグを組み、どうすればお客さまに更に心地良く・上質に感じていただけるか、日々試行錯誤しながら開発に取り組みます。

 


(写真:様々な種類のテストピースを並べステアリングの質感を比較する福井と米澤)

 

「最近の研究では、見た目から想像する触感と、実際に触れた時の触感の『ズレ』が、心地良さに影響を与えることもわかってきました。

 

触感のメカニズムは複雑で、我々の取り組みもまだ歴史が浅く課題や苦労も多いのですが、新しい発見も多くやりがいを感じます。

世界中のどの地域の人にも『心地良いクルマ』を目指して、研究することはまだまだあります」と福井は熱く語ります。

「人間中心の開発」をコンセプトに、日々深化を続けるマツダのクルマ造り。

 

次回は「マツダの匠 クラフトマンシップ開発」後編。
触感の造り込みにおける重要な鍵となる「シボ開発」の現場をご紹介します。

 

マツダ公式ブログでは、さまざまな分野の「匠」をご紹介しています。

▲【マツダの匠】 なぜマツダは計測にこだわるのか
https://blog.mazda.com/archive/20150310_01.html

▲【マツダの匠】 動き出すその瞬間から感じる「人馬一体」~クラッチ開発(前編)
https://blog.mazda.com/archive/20161206_01.html

カテゴリー:ストーリー