【ソウルレッド】エンジニアが語る「量産化」への挑戦〜前編
昨年の東京モーターショーで、マツダスタンドを彩った「ソウルレッドプレミアムメタリック」。
これは、圧倒的な存在感を表現する「強烈な鮮やかさ」と「深みのある陰影感」を両立した全く新しい「赤」。「色も造形の一部」と捉え、魂動デザインの躍動的な立体造形を際立たせる色として、作りだされました。
見る角度や、光の当たり方で様々な表情をみせる「ソウルレッド」。その秘密は、役割の異なる3つの塗装膜にあります。一般的な3コートマイカ塗装では、ソリッドのカラー層の上に反射層を塗り重ねますが、ソウルレッドでは、これを逆転させているのです。
ソウルレッドでは、最下層に高輝度のアルミフレークを規則正しく配置し、第二層に光を受けて鮮やかに発色する半透明のカラー層、そしてその上に、透明感を際立たせるクリア層を設置。これによって、一層目のアルミフレークに反射した光が、二層目のカラー層で鮮やかに発色するのです。光の反射がないときには一層目と二層目の赤が重なり、深みある赤を表現。これらが、豊かな表情の変化を実現しているのです。
この「こだわり抜いた赤」を量産車に適応するには、気が遠くなるようなエンジニアの試行錯誤がありました。今日は「ソウルレッド」を量産に導いた、エンジニアの篠田さんと久保田さん、デザイナーの細野さんが語る、「量産化」までの挑戦をご紹介します。
塗装の職人が塗り上げる色合いを機械で塗り上げることの難しさ
モーターショーなどで展示されるコンセプトカーは、職人が何層も塗り重ねる、漆のような塗り方で、仕上げます。「職人の技と時間」を惜しみなく注ぎ込んだ色合いは美しさを追求したもの。当然のことですが、耐久性や実用性は考慮されていません。
「そんな繊細な色を、安定的に1ヶ月に何千台というペースで塗り上げ、そしてあらゆる環境下で、その発色を保ち続ける。それは、並大抵の工夫や改良では実現できなかったのです」
こう語るのは、10年以上ボディカラーに携わり、コンセプトカーにおける「色の作り込み」を長年手がけてきたカラーデザイナーの細野さん。
「塗料の成分や組成にまで踏み込み、塗料メーカー、生産技術、技術研究所、ボディ設計そしてデザインが一丸となることで、今回のコンセプトカーの色と言ってもおかしくない色が実現できたのです」
こうして完成した「ソウルレッド」は、オートカラーアワード2013で「オートカラーデザイナーズセレクション エクステリア部門賞」を受賞。自動車デザイナーの方々に「エクステリアのカラー表現が優れている色」として、選出していただいたのです。
細野さんは、他業界や自動車業界のデザイナーから、「僕たちだってやりたい。でも、できないんだよね。なぜ、量産車で実現できたの?!」との声をかけられたこともあるとか。
デザイン初期段階から、エンジニアとデザイナーが共同で開発
マツダでは昔から、デザインの初期段階から、生産技術、技術研究所、ボディ設計が共同で活動を進めています。鮮やかさと深みを両立した「赤」へのこだわりも、長年にわたってデザイナーとエンジニアが共に共有してきました。
その中でもソウルレッドへのこだわりは特別でした。一般的な色開発は2年程度ですが、ソウルレッドの開発には、通常の2倍以上にあたる5年を超える年月をかけて磨き上げたのです。
「この色のクルマを、どうしてもお客様に届けたい!」デザイナーがそう言って、エンジニアに見せたコンセプトカーの色は、メンバー全員が息を飲む美しさだったそうです。
技術研究所で新色開発の性能検証を12年担当し、さまざま色を量産へ結びつけてきた久保田さんは、当時をこう振り返りました。
「最初に見たとき、まず感じたこと。それは単純に『かっこいい!』。でも次の瞬間には、エンジニアの目付きに切り替わり、ハードルの高さを感じました」
「コンセプトカーで、鮮やかさをプラスするとき使う染料は、耐久性を考慮すると量産車には使えない。そんな中、コンセプトカーの発色をどう維持するが、膜構成や材料を根本的に見直し検討。100ミクロンの世界に、メンバーの英知を惜しみなく注ぎ込みました。10年経ってもお客様に満足してもらえる色だからこそ、お客様をがっかりさせない色合いを保証したかったのです」
立体感と陰影感を出す「赤」を塗る難しさ
ロードスターのクラシックレッド、RX-8のベロシティレッドマイカなど、継続して『赤』の量産化に携わってきた、塗装一筋25年のベテランエンジニアである篠田さんは、「ソウルレッド」を量産ラインで安定的に塗装することの難しさをこう語りました。
「普通の塗装方法で塗装すると、魅力が半減するのです。立体感、陰影感を出すと同時に、赤の彩度を出すのが本当に難しい課題でした。そのためには、膜厚をコントロールする必要があったのです。テストピース1枚を塗るのは難しいことではありませんが、ボディ全体を均一に塗るとなると、別の次元となるのです。
ドア、ボンネットなどの単体部品内での、エッジと内部の膜厚を調整。そしてさらに、それらを組み合わせた時のバランスやドアを開けたときの見栄えなど、クルマを際立たせる色合いを出すには、どういう塗り方をどういう工程で行うべきなのか悩みに悩みました」
一切の妥協を許さない、エンジニア魂をかけた挑戦は、まだ続きます。後編では、光学特性の分析によって実現した「ソウルレッド」量産化への挑戦をご紹介します。
▲【ソウルレッド】エンジニアが語る「量産化」への挑戦~後編
https://blog.mazda.com/archive/20140313_01.html
昨年5月に掲載した「カラーデザイナーが語る『ソウルレッド』へのこだわり」も、ご覧ください。
前編 https://blog.mazda.com/archive/20130516_01.html
後編 https://blog.mazda.com/archive/20130523_01.html