【マツダの匠】人間の感覚を追求 ~シボ開発を支える飽くなき探求心(後編)
継承される志や情熱を紹介する連載企画『マツダの匠』。今回は、人間の感覚を研究する「クラフトマンシップ開発」後編として、触感や質感を左右する「シボ開発」を紹介します。
飽くなき探究心で開発に携わる
突然ですが、皆さんこれ↓何だかわかりますか?
答えは指先の触感を計測するための「シリコンモデル米澤ver.」です。
クラフトマンシップ開発に携わる、米澤 麻実(よねざわ あさみ)は、上司である福井 信行(ふくい のぶゆき)と共にこれまで「触感分野」のつくり込みに参加してきました。
エンジニア自らに優れた感覚・センスが求められる開発の現場。
信頼される若手のホープである米澤は、触感を追求してきた体験を楽しそうにこう振り返ります。
「指先にかかる荷重や振動を測りたくても、自分の指にセンサーを埋め込むわけにはいきません。
ならば自分の指先のモデルを作って測れば良い!と思いついたんです。その後、精度良く測れる計測器が見つかり、実際に使うことはなかったのですが…。」
触感を大きく左右する「シボ開発」
ところで、「シボ」ってご存知ですか?
ほとんどの部品の表面には、細かな凹凸模様の加工が施されておりこれを「シボ」と呼びます。
本来は、見た目の質感をあげるために施された「シボ」ですが触感にも影響を与えます。
皆さんがクルマに乗り込んだ時、最初に触るのはどこでしょうか?
ドライバーであればステアリングとシフトレバーを握る、同乗者であればダッシュボードやコンソールボックスから物を取り出すなど、私たちは無意識のうちに車内の色々な場所に触れています。
この時にステアリングがベタベタしていたり、ダッシュボードが金属のように硬いと・・・。
せっかくのドライブを快適に過ごすことができないだけでなく、不快感や不安感からドライバーの注意力が散漫になり安全性も低下するかもしれません。
このように、触感は快適性や安全性とも深く関わる大事な感覚。
そしてこの触感を向上させるためにも「シボ」は重要なのです。
マツダのクルマでは、手を置いたり握ったり長時間触れる場所のシボ加工にこだわります。この細かい凹凸で、見た目の質感はもちろん、触感の良さや操作感もガラリと変わるのです。
お客さまに長く愛され続けるクルマを造るために
しかし、「上質な見た目」と「心地良い触感」の両立はたやすいことではありません。
時には、ステアリングなどの表面に使用されている「革」は使用環境により劣化していきますが、この劣化を防ぐための表面のコーティングは触感を悪くしてしまうことがあります。
「これまでは、良い触感のものは比較的劣化が早く、逆に長持ちするものは触感が悪くなりやすいというのは常識でした。
マツダはお客さまに長く愛され続けるクルマをつくるために、そこをどうしても打破したかったのです」と福井は語ります。
(写真左:テストピースを顕微鏡で拡大し確認、右:表面凹凸の高さや間隔が触感に影響を与える)
人間の五感は、他の感覚と密接につながっています。
人は、モノの質感を触感だけではなく、視覚など他の感覚も使って判断しています。そのため、各感覚器の反応、その時の人の状態とモノの特性の関係を把握する必要があります。
具体的にはシボによって反射する光の特性、革に触れた時に指へ伝わる摩擦や振動を計測しながら、各感触器の反応を確認しています。様々なテストピースを用意して何度も実験や評価を繰り返して開発を進めました」と米澤。
(写真:測定器を付けた指を滑らせ、指に伝わる摩擦や振動を計測)
新型「CX-8」にも搭載 すべての人に感動を与えるステアリング
設計や関係部署、そしてサプライヤー様とも協力して高触感表面の特性を研究してきました。
何種類ものサンプルを試作して試行錯誤した結果、福井たちは見た目も触り心地も、そして耐久性も高めたステアリングの開発に成功しました。
(写真左:様々な材料で作られた試作ステアリング)
(写真右:シートからステアリングの形状に加工された革の触感を比較する)
クルマを運転するすべての人に感動と心地よさを与えるこの高触感のステアリング技術は、先日から予約受注がスタートした新型「CX-8」をはじめ、アクセラやCX-5などにも搭載されています。
たかがシボ、されどシボ。
このように普段乗っている時には気づかない細やかな工夫やこだわりが、マツダのクルマ造りを、そしてお客さまの快適なカーライフを支えているのです。
五ゲン主義を身につけた匠集団であれ
「クラフトマンシップ開発は、人間の感覚・感情への深い理解によって、インテリアそれぞれの機能を向上させるものです。幅広い知識と経験、センスを求められるため、匠集団になる必要があると考えています。
そして技術向上のためには、基本となる現場・現物・現実から考える能力に加え、原理・原則をしっかりと理解して説明できる『五ゲン主義』が欠かせません」
どんなにCAEなどのバーチャル技術が進化しても、自分の目で見て、自分の考えることがモノづくりの基本。机上の空論だけでは優れたエンジニア-匠-にはなれないのです。
これからの展望について米澤は、
「ステアリングとダッシュボードなど、使用目的が変われば求められる「触感」の質も変ります。目指すのは、乗員すべてがどこに触れても心地良く感じる。そして乗車するのが楽しくなるクルマづくりです」と力強く答えます。
「自ら積極的に学び実行する」
その志がマツダのクルマづくりを支えています。
【マツダの匠】人間の感覚を追求~五感で感じる「走る歓び」(前編)