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2014.5.8

【魂動デザインをイメージしたイスに込められたモノづくり #4】シート製作~二人の師弟ハードモデラーの挑戦

昨年6月から連載でご紹介している「魂動デザインをイメージしたイスに込められたモノづくり」。

最終回となる今日は、イスの製作リーダーであるモデラーの藤木さんと、その技と知識を受け継ぐ若手モデラーの佐藤さんの「製作にかけた想いや挑戦」をご紹介します。

魂動デザインをテーマにした今回のイスは、生き物の持つダイナミックで躍動感のある造形と、巧みに計算され研ぎ澄まされたモノに宿る「魂」を表現。2013年4月にイタリア・ミラノで開催されたデザインイベント「ミラノサローネ」で展示された作品です。

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このイスのシートには、二人の師弟ハードモデラーの挑戦とこだわりがつまっているのです。

ちなみに、みなさん「ハードモデル」と「クレイモデル」の違いをご存知ですか?
クレイモデルとは、クルマのデザイン形状を確定させるため、粘土で作るデザインモデルのこと。一方、ハードモデルは、確定されたデザインを、確認または決定するために木や樹脂、金属、塗料そして革など本物の材料を使って造る実車感あふれるデザインモデルのことなのです。
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(左写真:ハードモデル 右写真:クレイモデル)

シート製作を担当した藤木さんは、縫製技術を主体としたモデル製作のスペシャリスト。30年以上の経験を持つベテランのハードモデラーです。知識や技能に加えて、さまざまな角度から出るアイデアを期待され、今回のイスの製作リーダーに抜擢されました。そして、若手の代表として佐藤さんが、更なる成長を期待されて、今回のプロジェクトを担当することになりました。こうして、年の差25歳の二人がタッグを組み、新しい挑戦が始まったのです。

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未知との闘い

藤木さんが、魂動デザインをイメージしたイスの製作リーダーに任命されたとき、一つの不安がよぎりました。
「世界を納得させる品質で納期に間に合わせる事ができるのか」

今回の製作に与えられた期間は非常に短く1ヶ月を切っていました。
「マツダが初めて出品するミラノサローネのイベントを絶対に成功させなければならない。」

強い気持ちを持って挑んだ藤木さんはメンバーとアイデアを出し合い、新しい製作方法にチャレンジすることを決断。これまで何度もデザインモデルを製作してきたベテランの藤木さんでさえ、ほとんど経験したことがない、未知との闘いが始まりました。

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もう一脚造られたイス

こうして始まったイスのシート製作。実は完成品のほかにもう一脚、全く同じ形の椅子を作ったそうです。

「事前に型紙を造るために製作しました。シートには柔らかい子牛の革を使ったのですが、一枚の革の中でも模様が少しずつ違っています。その中でシートの模様に適した部分はわずかしかなく、失敗しても代わりの革は手に入らないのです。また、造りかえる時間もありません。そのため試作品を造り、それをもとに型紙を取り、仮縫いを繰り返し、納得のいく表皮に仕立てておいて納期に間に合わせるようにしたのです。」

細心の注意を払い、丁寧に裁断。失敗の許されない作業には、想像を超える集中力が求められます。

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革貼りは、まさに一発勝負

縫製した革の表皮をシートに貼り付ける作業も工夫の連続だったとか。

「この形状の貼り込みには接着剤の使用が不可欠でした。しかし貼り込みながら接着面を少しでも剥がすと、クッション材が破れてしまいその時点で、その表皮は使えなくなってしまいます。やりかえる表皮はありませんから絶対に失敗は許されない一発勝負の作業だったのです。」

「さらに、縫製ラインに沿って彫ってある溝にステッチを合わせながら1本のしわも入らないよう革を貼り込まなければならず、4人がかりで息を合わせながら慎重に貼っていきました。」まさに一発勝負。真剣なまなざしがその緊張感を語っています。

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ステッチの細部までのこだわり

シートの中心を走るステッチは全て手で縫い上げたもの。六角形の模様が美しく仕上がるよう一針一針慎重に縫い上げたそうです。

「このステッチは魂動をイメージして私たちが提案しました。たくさんのサンプルから厳選して選ばれた物です。ぜひステッチを通じても魂動デザインを感じ取っていただきたいです。」

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様々なモノで伝える「魂動」

「今後は、もっと本物の材料の持つ魅力を探求して行きたい。デザインを創り出すのは造形と素材のマッチングが重要です。形と素材が融合し究極の美しさを表現できるようなモノ造りができるようデザイナーと協力し挑戦していきたい。それはクルマだけでなく、様々なモノで表現し魂動を伝えていきたい」と語る藤木さん。

「魂動デザインをイメージしたイスのように、クルマでないからこそ、温かみや表情など、もっと自由にデザインを伝えることができる。」
そう語るその表情には、魂動デザインを様々な手段で世界に広めていきたいという強い想いを感じました。

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これまで4回にわたって、今回のプロジェクトに携わった職人を紹介してきました。マツダの職人は、譲れないこだわりをもってモノづくりに取り組んでいます。これからも、みなさんに驚きと感動を感じていただけるデザインを提案し続けますので、これからのマツダデザインにどうぞご期待ください。

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これまで掲載した「魂動デザインをイメージしたイスに込められたモノづくり」はこちら。

【魂動デザインをイメージしたイスに込められたモノづくり #1】
https://blog.mazda.com/archive/20140507_01.html

【魂動デザインをイメージしたイスに込められたモノづくり #2】〜クレイモデラーが込める温もりと魂
https://blog.mazda.com/archive/20130822_01.html

【魂動デザインをイメージしたイスに込められたモノづくり #3】〜磨きの職人が追い求めた脚の質感
https://blog.mazda.com/archive/20131107_01.html

カテゴリー:ストーリー