MAZDA公式ブログ
2019.6.20

クルマの「音」の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取り組み

視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚。

 

人間は、これらの五感から情報を得ています。

しかし、それぞれの感覚から異なる情報が入ってきた際、私たちは違和感を感じてしまいます。

 

例えば、テレビ中継で画像の動きと音声がずれて聞こえてくることがあると、「違和感」がありませんか?

それは、「視覚」から得る情報と「聴覚」から得る情報が一致していないため。

逆に言えば、状況に沿った情報を各感覚で同時に正しく受け取ることができれば、人間にとって「違和感」のない「自然な状態」になります。

 

人間にとって「自然な状態」を乗車時にも実現させる取り組みが、マツダの「人間中心」のクルマづくり。

 

そんなクルマづくりの中でも、今回は聴覚に深く関わる領域をご紹介します。

 

 

 

クルマづくりの「聴覚」:NVH

 

突然ですがNVH、何を意味するかご存知ですか?

 

NVHとは、N:Noise(騒音)、V:Vibration(振動)、H:Harshness(ハーシュネス…荒さ・不快さ)の頭文字をとったもの。

クルマの「快適性」を評価するひとつの基準ともされ、NVHを改善することで、より快適な車室空間の実現に結びつけることができます。

では、音や振動という見えない相手に対して、どのように研究・開発が進んでいるのでしょうか?

 

そこで今回、マツダ車両開発本部・NVH性能開発部のエンジニア、伊藤 美和(いとう みわ)を取材してきました。

 

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

マツダ車両開発本部NVH性能開発部 伊藤美和

 

同じ部署で働く方に彼女のことを尋ねると…

「伊藤さんの作るモデルは緻密にして正確であり、人格が表れていると感じています。社内外の技術報告会では、“度胸”も感じますね。」

このようなコメントが返ってきました。

 

そんな印象をもつ彼女が担当するマツダのNVHの取組みについて、いろいろと聞いてみました。

 


 

―はじめに、所属されているNVH性能開発部の業務について、教えてもらえますか。

一般的には「車室内の静粛性を高める」開発業務ですが、マツダでは、「ドライバーだけでなく、乗員すべてが会話や音楽を楽しめ、快適に過ごせる上質な空間」を理想とし、より良い車室をつくるための実研や開発を行っています。

 

 

―「快適に過ごせる上質な空間」とは?静粛性を高めるだけではないのでしょうか?

クルマを走らせるとさまざまな音や振動が発生しますが、その中には聞こえると不快に感じるものもあります。

こうした車外から伝わってくる音や振動やそれに起因する不快な音を、遮断したり抑制したりすることで静粛性を高めることが、私たちの仕事の一つです。

とは言え、会話やオーディオ音しか聞こえない、というただ静かな状態が理想的ではありません。クルマに乗ることがワクワクするようなエンジン音や排気音、ドライバーに必要な周囲や路面の状況などを伝える音などは、あえて「聞かせる」ようにすることも必要です。

乗員に聞こえる音を整えることで「快適に過ごせる上質な空間」を作ることに取り組んでいます。

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

 

 

―どのような方法で音を整えるのでしょうか?

静粛性を高めるのにいちばん分かりやすいのは「遮音材」の活用ですが、多用すると重量増につながってしまいます。

そこでマツダでは、素材や部品の改良のみならず、クルマの構造そのものを工夫することで、軽量化にも貢献しお客さまに「走る歓び」を提供する開発を行っています。

また「人間中心」の考え方も大事な要素です。「聞かせる」音も、あくまで自然に聞こえるように整えています。外部から入ってくる音は鉄板やガラスなど違う素材を経由して伝わってくるので、距離や方向の感覚がつかみにくいもの。サイレンやクラクションなど必要な音が、正しい距離感や方向感を持って伝わることも課題の一つです。

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み 

 

―伊藤さん自身が携わっている現在の業務はどんなことですか?

私は現在、NVH性能開発部で先行技術開発を担当しています。

NVH開発プロセスの理想の姿を実現するために必要な音の解析ツール・設備の導入や予測技術の構築が主な業務内容です。

 

 

―自身の提案で新しく導入した設備や機器はどんなものがありますか?

代表的なものでは、「残響無響室」という設備の導入に携わりました。

これは大きな防音室なのですが、音を出す部屋と計測する部屋の2つに分かれており、その2つの部屋の間にクルマの部品をはめこみ、どの位置で、どの周波数の音が、どれくらい通り抜けてくるかを測ることができます。

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

この設備により車体や部品の構造や素材により、静粛性にどのような影響があるかが計測できるようになりました。

 

 

―なにか新しい発見や、開発に生かされたことはありますか?

例えばドアには、外から見える金属製の外板と内から見える樹脂製のパネルの間に、インナーパネルと呼ばれる鉄板があります。

このような鉄板の「穴」の存在が想像以上に静粛性へ影響することを、「残響無響室」により実証することができました。

下のグラフは、パネルの穴の大きさに対する遮音量の関係性を表したグラフです。

面積に対し1%の穴があることで30%、10%の穴で70%もの遮音機能が失われることが分かりました。

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

穴の大きさと遮音量の関係のグラフ

 

今までも穴による遮音への影響は課題と感じていましたが、このように数値にて可視化することによって、他部門も今まで以上に重要視するようになりました。

この検証結果や設備は5月に日本で発売されたばかりの「MAZDA3」の開発にも使用されています。

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

5月に日本で発売された「MAZDA3

 

 

―MAZDA3の開発でも生かされたとのことですが、具体的には?

MAZDA3では、これまでの車種ではドアパネルについていた、大きな低音用オーディオスピーカーの位置を変更しています。

これはオーディオ領域との共創でもありました。

これまで私たちは、低音用スピーカーはドアパネルについているのが当たり前と思っていました。しかし、ドアパネルに大きなスピーカーをつけるには、インナーパネルの鉄板にはめ込むための穴を作る必要があり、外部の音を通す要因となっていました。

これを改善するべく、先ほどの「穴」の影響を検証したデータを持って、車体やオーディオの担当部門に相談しました。

オーディオの担当者も今までの概念を取り払い、最適な音響を作るための研究を進めると、パワフルで締まった低音を聴かせるには、「ドア」よりも「ボディ」にスピーカーを配置した方が良いことがわかったのです。

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

結果、MAZDA3では、低音スピーカーの位置を足元のカウルサイドに移動させ、ドアパネルの穴をふさぐことで、静粛性の大幅な向上につながっています。

新世代車種ということで、ゼロベースで考えることができたことで、NVH領域の静粛性能とオーディオ領域の音響性能のニーズをかけあわせた、より上質な空間づくりができました。

 

 

―もう一つの業務、予測技術の構築は、どのような内容ですか?

現在マツダが各領域の開発で力をいれている「モデルベース開発」に向けた技術構築です。NVH領域におけるシミュレーション精度を高め、設計段階から車室内の静粛性を正確に予測し、効率的な開発プロセスを構築しようとしています。

 

 

―「モデルベース開発」とは?

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

過去のクルマの開発においては、設計で意図した性能が実際のクルマで出せているか確認するためには、試作車を製作して検証するしかありませんでした。何台も試作車を製作して試行錯誤を繰り返すため、クルマの開発はどうしても期間が長くかかっていました。

現在のクルマの開発においては、穴の位置や大きさ・素材の種類など、これまで蓄積した実車の膨大なデータと性能の測定結果の関係を理論的にモデル化し、それに基づくシミュレーションによる検証を増やしてきています。この精度を高めていくことで、将来のクルマ開発は、条件を入力することで、性能予測を短時間で正確にできるようになります。

各領域のシミュレーションを掛け合わせて、クルマ全体の性能を予測することで、設計以降の手戻りを減らし、開発プロセスの効率化を図っていくことが「モデルベース開発」です。

 

まだ予測技術の構築は取り組んでいる最中なので、NVH領域でも量産車開発でスポット的に適用しているのが現状です。ですが、クルマ開発の全領域において予測技術のレベルを高め、すべてのクルマに展開できるモデルベース開発を確立することができれば、効率的で画期的な開発プロセスに一新させることができます。そうすることで、お客さまにいち早く、より快適に過ごせる上質なクルマをお届けすることができるようになります。

 

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

 

―まさに最先端の取り組みですね。今後の課題は?

先ほどお伝えした通り、一つは、より早く、より広く、新しい開発プロセスを確立させ、静粛性が高く快適で上質な空間を、お客さまにお届けしていくことです。

もう一つは、やはり「人間中心」です。ただ「静かである」静粛性を高め続けることが正解ではないと思っています。

静かすぎることが、不自然で気持ち悪いと感じたり、快適さを失うこともあるからです。

「どんなシーンでもクルマに乗っている全員がそのドライブ体験を楽しむことができる」

この価値を提供するために、理想的な車室内空間とはなにか、を常に試行錯誤し、その実現に向けて取り組んでいきたいと思っています。

 

 

―静粛性や音の仕事に関わっていることで、日常生活で気になることがありますか?また伊藤さんのこれからの目標は?

この仕事について以降、常日頃から音や振動が気になって仕方がない!とか、職業病みたいなものですか?あまりないですね(笑)。むしろ日常生活を自然体で過ごすことが、「快適さ」の追求につながるのかな、と思います。

日常生活と同じように自然で快適な会話が楽しめるクルマを目指して、日々の業務に取り組んでいます。

開発に携わるエンジニアとして、自分の業務や提案がひとつでも多く量産技術に組み込まれ、多くのお客さまに快適な空間を感じてもらえよう、これからもチャレンジを続けていきたいです。

クルマの『音』の世界 ― 未来を見据えたエンジニアの取組み

 

ありがとうございました。

 


 

みなさんいかがでしたか。

 

無意識に感じている快適な車室内空間の裏には、こうしたNVH領域のエンジニアの努力や最新の取り組みが隠れていたんですね。

最新技術の詰まったMAZDA3の静粛性や室内空間の快適性についても、ぜひ実車で体感してみてください。

 

 

 

■公式ブログ「新世代商品第一弾、「MAZDA3」の国内販売を開始!」
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■公式ブログ「新時代の幕開け:「MAZDA3」発表会の様子をお届けします!」

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