新開発のロータリーエンジンを搭載したパワーユニットが誕生
コンパクトSUV「MAZDA MX-30」には、これまでガソリンエンジンで駆動するハイブリッドモデルとモーターで駆動するEV MODELがありました。今年11月に発売した「MAZDA MX-30 Rotary-EV」は、シリーズ式プラグインハイブリッドながら、マツダ独自のロータリーエンジンを発電機として使用する、EVとしての使い方を拡げる今までにない電動車として登場しました。
MX-30 Rotary-EVの走行はすべてモーターで行います。新設計の8C型ロータリーエンジンを発電用に搭載。バッテリーからの電力のみで走るEV MODELよりも搭載バッテリー容量を小さくしましたが、ロータリーエンジンの発電によって航続距離の大幅な伸長を図っています。
航続距離や充電環境をあまり気にかけずに長距離ドライブが行えるだけでなく、アウトドアでの家電使用時の電力源として、また災害時などに自宅への給電用途にも応えられるなど、様々な用途に合わせた使い方が可能です。
MAZDA MX-30 Rotary-EV
今回のブログでは、マルチソリューション戦略の下で、MAZDA MX-30にとってEV、ハイブリッドにつづく3つめの、ロータリーエンジンを搭載したプラグインハイブリッド(PHEV)についてご紹介します。
目次
ロータリーエンジン車の誕生
マツダが初めてロータリーエンジンを搭載した車を発売したのは1967年のこと。
従来のレシプロエンジンと構造の異なる小型で高出力のロータリーエンジンは、コスモスポーツへの(1967年発売)搭載に始まり、ファミリアやカペラ、ルーチェなど幅広い車種に展開しました。これらはすべて走行時の駆動用として搭載されたエンジンです。
コスモスポーツは世界初の2ローターロータリーエンジンを搭載
そして、今年、MAZDA MX-30 の新しいプラグインハイブリッド(PHEV)に搭載する新型のロータリーエンジン「8C」の生産を開始。同車の発売直前の10月にマツダのロータリーエンジン搭載車の生産累計台数は200万台(1967年-2023年10月)を記録しました。
8C型ロータリーエンジンを搭載するPHEVシステム「e-SKYACTIV R-EV」
今回新設計の「8C」型ロータリーエンジンを搭載したMX-30 Rotary-EV。走行時の駆動は常にモーターで行われます。(シリーズ式ハイブリッド)
17.8kWhリチウムイオンバッテリーのみでのEV航続距離は107km*。充電器で十分に充電できないような状況でもロータリーエンジンの発電によって航続距離を大幅に伸長できるため、充電の不安なく長距離をモーターで駆動します。
*EV走行換算距離(等価EVレンジ)は定められた試験条件での値です。使用環境(気象、渋滞等)や運転方法(急発進、エアコン使用等)に応じて異なります。WLTCモード(国土交通省審査値):市街地、郊外、高速道路の各走行モードを平均的な使用時間配分で構成した国際的な走行モード。
・電動駆動ユニットの概要
左からモーター、ジェネレーター、発電用エンジンを配置
モータールームには高出力モーター、高出力ジェネレーターとロータリーエンジンを同一軸上に配置。パワーユニットを横置きしてもモータールームに収まるコンパクトな設計で、EV MODELと同じフレームに搭載されています。ロータリーエンジンはコンパクトなためMX-30のモータールームに搭載するのに適した発電用エンジンとして選ばれています。
また、レシプロエンジンと異なり、ロータリーエンジンは高負荷で効率が良い特徴があり、発電をより短い時間で行えるため、エンジンの稼働時間も短くなります。
EV MODELよりも容量を小さくし小型化されたバッテリーモジュール
<モーター主要諸元>
最高出力125kW(170PS)/9,000rpm
最大トルク260Nm(26.4kgf・m/0-4,481rpm)
冷却方式 油冷
MX-30 Rotary-EVに搭載された新開発の8C型ロータリーエンジンの特徴
MX-30 Rotary-EVに搭載されている新開発の8C型ロータリーエンジンの特徴について、設計に携わったエンジン設計部の緒方佳典(おがた よしのり)に話を聞きました。
エンジン設計部 緒方佳典
―これまでのロータリーエンジンと違うところは
今回は発電用に設計したもので、必要な時だけエンジンがかかります。
初の直噴エンジンでローター数はひとつ。ローターあたりの排気量は拡大しています。
コスモスポーツ以来、ロータリーエンジン搭載したクルマの多くは2ローターエンジンを採用していますが1990年発売のユーノスコスモで唯一の3ローターロータリーエンジンも設定していました。
MX-30 Rotary-EVは、量産車としてロータリーエンジンで発電する初のモデルになります。
8C型ロータリーエンジンの構成部品
―ローターのサイズも大きく見えますが排気量も大きくなっていますね。
RX-8に搭載した駆動用のロータリーエンジンRENESISでは654cc×2の排気量でしたが、今回新たに設計、開発したエンジンの排気量は830cc×1となります。
ローターはひとつですが、燃焼室当たりではこれまでで最大の排気量になります。
―軽量・コンパクトなためロータリーを選んだと聞きました。
サイドハウジング材質は従来鉄製からアルミに変更して軽量化しています。エンジン単体で従来比15 kg減 の軽量化に成功しています。
アルミ製のサイドハウジング
―近年のSKYACTIVエンジンと同じく直噴化しているそうですがメリットは?
燃料噴射方式ですがマツダのロータリーエンジンとしては初の直噴を採用しました。
燃焼室内の主燃焼エリアに均一に燃料を分布させることで効率的な燃焼を実現し、より低燃費、低エミッションを可能にするキー技術です。
従来のロータリーエンジンよりも高い圧縮比を11.9を実現しています。
また、さらなる燃費改善のためにEGR(排気ガスの再循環)システムも採用しています。
―圧縮比も上がったのですね。
はい。圧縮比は11.9。ガスシール、摺動面も進化しています。燃焼室の機密性を確保するためにローターの頂点に配したアペックスシールは、耐摩耗性向上のため厚さを2.5㎜に拡大。ハウジングトロコイド面のメッキを変更し摩耗と摩擦抵抗の低減も図っています。サイド面についてはアルミサイドハウジングの表面に高速フレーム法によるサーメット溶射をして摩擦抵抗と摩耗を低減しています。
サイドハウジングのサーメット溶射加工
ロータリーエンジンと組み合わせたPHEVシステムは走り・利便性・環境性能を両立
MX-30 Rotary-EVでは、走行のすべてをモーターで駆動します。また、急な加速で大きな出力が必要な場面*や、目的地で給電機能を使うためにバッテリーの残量を温存しておきたい時、あるいは長距離移動を行う時などは、走行中にロータリーエンジンによる発電を行い、バッテリーに必要な電力を供給します。
環境、走り、電動車としての利便性をうまくバランスさせ、気軽に、身軽に環境に配慮した使い方が可能です。
・走行モードは3タイプから選べます
センターコンソールのセレクターの操作によって3つの走行モードを選べるようにしています。近距離の買い物などではバッテリーのみで走行し、キャンプなど到着場所で家電機器などに接続したい場合など、残りの充電容量を任意に設定しロータリーエンジンで発電するような設定も可能です。
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EVモード | ノーマルモード | チャージモード |
・バッテリーの電力で、できるだけ長く走行するモード ・基本的に外部充電した電力だけで走るため、燃料使用を最小限に抑え、EVと同じく静かな走りを長く楽しめます。 ・一般的なAT車におけるキックダウンスイッチのように、アクセルペダルをある一定の位置以上に深く踏み込むと、発電システムが作動し、最大の加速性能を発揮できます。 |
・ドライバーの操作に応じた加速性能をいつでも提供できるモード ・バッテリー容量が十分であればEV走行し、加速に必要な電力が足りなくなると発電システムが作動して電力を補うことで、いつでも意図したとおりの加速性能を発揮できるよう、充電残量を最適にコントロールします。
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・充電残量(SOC)を自由に設定できるモード
・夜間の住宅街で静かに走りたいとき、あるいはアウトドアなどでの給電機能の使用に備えて、事前に電力を確保しておくことができます。 ・SOCは20~100%の間で、10%単位で設定可能で、設定値よりも少なくなると発電システムが作動して設定値までバッテリーを充電し、その後もキープします。 |
*MAZDA MX-30 Rotary EVのEVとしての使い勝手、装備はこちらを参照ください。
https://www.mazda.co.jp/cars/mx-30/?car_id=mx-30rotaryev
MAZDA MX-30 Rotary-EVの性能
<充電性能>
バッテリー容量
(自社調べ) |
充電方式 | 充電設備の電力 | 充電時間
SOC20⇒80% |
17.8kWh | 普通(AC) | 3kW | 約3時間50分 |
6kW | 約1時間50分 | ||
急速(DC) | 40kWh以上 | 約25分 |
*普通(AC)充電は,使用される充電ケーブルによって充電時間は変動します。
**SOC(State Of Charge)80%になると充電速度が抑制されます。
***充電時間は外気温25℃・バッテリー温度25℃の条件下での数値です。実際の充電時間は、充電設備の電力、バッテリーの残量、外気温などの条件に応じて変動します。
<車外への給電性能>
V2L(Vehicle to Load):荷室の電源コンセントを使って1,500Wまでの電化製品の使用が可能です。
V2H (Vehicle to Home):専用のV2H機器を接続することでクルマから建物への給電が可能。
17.8 kWhのバッテリーを満充電しておけば約1.2日分の電力供給を行えます。満充電のバッテリーと燃料タンク満タンでの発電(特殊モード)の組み合わせでは9.1日分の電力供給が可能。(当社調べに基づき1日の電力使用量10kWhとした場合の試算。V2H機器の変換効率は含まず)
今年、ロータリーエンジン搭載車の累計生産台数が200万台を達成した本社工場
ロータリーエンジンを生産する広島の本社工場の様子を画像でご紹介します。
ローター部品を鋳造する砂型の精度も高められ管理される
ロータリーエンジンの組み立て工程
バッテリーユニットの搭載工程
EVシステムを車に搭載する工程
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今回のブログではマツダの電動化をリードし、新しい試みに挑戦するMAZDA MX-30のロータリーエンジンを搭載するPHEVモデルを紹介しました。
マツダの「飽くなき挑戦」のスピリットは新たなステージへ受け継がれていきます。
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