マツダ百年史 最終回:レストアプロジェクト ~名車の復元~(2010~20年代)
マツダ公式ブログでは創立100周年を記念して、100年の歴史から特に象徴的なエピソードを厳選してお届けしています。
百年史エピソードを紹介する連載は今回で最終回となります。
最終回では、往年のマツダ車を復元させた社内レストアプロジェクトのお話を紹介します。
マツダミュージアムのコスモスポーツ
マツダミュージアム来場者の多くが目を留めるコスモスポーツの美しいフォルム。
かつてはPRのために世界を駆け巡った輝かしい経歴を持つ車両。
しかし、その外観のまぶしさとは裏腹に、内側にはダメージがたまっていた。
ボディ下面には傷やへこみが多く、サスペンション部品は錆だらけ、なによりも、心臓ともいえる世界初の2ローター・ロータリーエンジンは長らく沈黙したままだった。
取り出されるエンジン
そんなコスモスポーツの展示車を社内でレストアしようという動きが出たのは、2015年のことだった。
ここでいうレストアとは、老朽化した車両を修復し、新車同然の状態に復元すること。
若手社員を中心に、このレストアを通じてモノづくりの思いを探ろうというプロジェクトが始動したのだ。
ただ、実務メンバーにその道の専門家は誰一人いない。
また、専任ではなく本来の業務との掛け持ちが前提。
参加へのハードルは決して低くはなかったが、
「クルマの構造をしっかり理解したい」
「モノづくりに触れてみたい」
などと、技術系に加えて事務系の部門からも手が上がり、総勢20名の熱意を持った有志が集まった。
毎週木曜を「レストアの日」と設定し、週5日分の業務を4日間で片付け、先人たちの遺産に向き合っていった。
ところがいざ蓋を開けてみると、旧車を解体して復元する作業は、長く険しい道程であることを思い知らされた。
走行可能な状態にするだけでざっと250点の部品交換が要ると判ったのだが、全ての部品が廃番。
図面も断片的にしか残っておらず、部品の修復は困難を極めた。
数々の部品
そんな中、力を貸してくれたのが、大ベテランのサポートメンバーだった。
「車軸が回らない原因はこれだ」
「昔はこうやって直した」
などと、〝マツダの生き字引〟とも言うべき豊富な知識や経験を借り、勘所を押さえ、全員で一つひとつ難題を克服していった。
それでも修復困難な部品に行き当たり、わらにもすがる思いで、かつての部品メーカーに相談した時のことだ。
コスモスポーツが引き寄せたか、そこで小さな奇跡が起きる。
当初は打開策が打ち出せず技術者と一緒に頭を抱えていたのだが、偶然にも古株の役員が通りかかった。
「その部品はワシが新入社員の時につくったもので、部品番号も覚えている。」
そう言うと倉庫から古い図面を引っ張り出し、頓挫しかけた部品の修復に道を拓いてくれたのだ。
また、他のメーカーでも、ある幹部から
「若い頃に携わった部品なので、ぜひ検討に加わらせてほしい」
と、有り難い申し出を受けるケースがあった。
エポックメイキングだったこのクルマが、実に多くの人々に支えられていたことを実感する出来事だった。
当時の資料の一部
こうしてレストア活動は軌道に乗り、部品の構造や形状の詳しい調査を通じ、当時の技術者の工夫やこだわり、苦労の跡を感じる体験も相次いだ。
ロータリーエンジンの先進性や原理・構造の特殊性はもちろん、継ぎ目のないボディにするための念入りな仕立て、そして、絶えず性能を向上させていった開発の足跡までも。
「先人たちはここまで考え抜いていたのか」
と驚きの連続だったが、同時に
「自分たちは将来の後輩たちから感心されるモノづくりをしているのだろうか?」
と問われているようで、身が引き締まったという。
進められる作業
完璧に復元されたコスモスポーツがそのヴェールを脱いだのは、プロジェクト開始から1年後の2016年。
本社構内で開催したお披露目の走行イベントには、その雄姿を一目見ようと、多くの社員が沿道に詰め掛けた。
長年「遺産」としてただ静かに展示されてきた純白のボディに再び生命が宿り、乾いたエンジン音を発しながら目の前を颯爽と駆け抜けていく。
レストアされたコスモスポーツのお披露目走行
「おお!」
思わず歓声があがる。
名車に込められた思いは時を超え、確かに受け継がれたのだ。
以上、コスモスポーツを復元させた、レストアプロジェクトの秘話をご紹介しました。
その後も100周年を迎える2020年に向けて、R360クーペ、ルーチェロータリークーペ、5代目ファミリア、GA型三輪トラックを、一年ごとにレストアしてきました。
360クーペ(2017年レストア)
ルーチェロータリークーペ(2018年レストア)
5代目ファミリア(2019年レストア)
GA型三輪トラック(2020年レストア)
三次試験場に集まったレストア車両
ブログでの100周年特集は今回が最終回になりますが、MAZDA VIRTUAL MUSEUMでは、秘蔵画像や映像などのコンテンツを数多く公開していますので、こちらも是非ご覧ください。
■マツダ百年史記事(マツダ公式ブログ)
マツダ百年史① 自社開発へのこだわり(1930年代)
マツダ百年史② キャラバン隊 鹿児島-東京間の旅(1930年代)
マツダ百年史③ 地元広島とともに志した復興(1940年代)
マツダ百年史④先進技術で常識を覆せ~エンジンとデザインへのこだわり~(1950年代)
マツダ百年史⑤若者を振り向かせたハッチバック(1970~80年代)
マツダ百年史⑥三次試験場 ~目指せ、世界に通用するテストコース~(1960~80年代)