バイオエンプラって?カーボンニュートラルな社会の実現にむけたマツダの飽くなき技術開発 〈後編〉
バイオエンプラって?カーボンニュートラルな社会の実現にむけたマツダの飽くなき技術開発〈前編〉では、そもそもバイオエンプラとはなにか、マツダがこれまで歩んできたバイオプラスチック開発の歩み、そして開発において大事にしている3軸「環境性」「経済性」「商品性」を両立させた無塗装化技術についてご紹介しました。
今回の後編では、3つの軸のひとつである「商品性」=見た目の美しさを深化させた新技術「バイオエンプラ新意匠2層成形技術」、そして未来のカーボンニュートラル社会の実現にむけた開発者の想いをご紹介します。
(バイオエンプラ新意匠2層成形技術イメージ)
前編に引き続き、この領域の開発をリードしている一原 洋平(いちはら ようへい)に詳しく解説してもらいます。
一原 洋平(いちはら ようへい)
車両開発本部 装備開発部
【後編】 ※本記事
■見た目の美しさをより深化させた新技術「バイオエンプラ新意匠2層成形技術」 ■カーボンニュートラルの貢献において大切なのは、「お客さま」「作り手」「環境」三方良しであること * * * 【前編】 ⇚ 前編の記事はこちらのリンクからご覧ください。 ■バイオエンジニアリングプラスチック(バイオエンプラ)とは? ■開発者に聞く!― マツダ独自のバイオエンプラ開発の飽くなき挑戦- |
■見た目の美しさをより深化させた新技術「バイオエンプラ新意匠2層成形技術」
— 商品性をさらに向上させた 「バイオエンプラ新意匠2層成形技術」とはどんなものですか?
「バイオエンプラ新意匠2層成形技術」は、さらに見た目の美しさを深化させたマツダの独自技術です。
見た目の美しさは、お客さまに見て感じていただける直接の提供価値として、開発において意匠性を高めていこうという想いはずっと持ち続けていました。
バイオエンプラ無塗装化技術によって、従来の塗装では実現できない高質感は表現できていましたが、ソウルレッドのように、深みのある色を持ちつつ、光の移ろいで表情が変わるような見映えの表現には苦労していました。
そこで独自に編み出したのが、2層に分けた構造で成形させることでした。
— 2層とはどのような構造になっていますか?
表層(第1層)は、無色透明なバイオエンプラの特徴を活かしたカラークリア層になっており、まっすぐ光を透過させます。もし色の深みをだすために光を減衰させたい場合は無塗装化技術で培った着色材の量や板厚の調整で、光の透過・減衰をうまくコントロールします。
透過した先に見える基材(第2層)では、表面に柄を刻み込み、光吸収剤や高輝材を添加することで光を受ける角度によって精緻な柄が浮かびあがる仕立てになっています。
光が当たらないときは、艶やかな漆黒のパネル。しかしひとたび光を受ければ奥底から柄が浮かび上がり、精緻さと透明感が際立ち、まるで光の移ろいで表情を変化させていくエクステリアの造形のように豊かな表情を見せるパネルを実現することができました。
この技術は、MAZDA3とMAZDA CX-30のシフトパネルとカップホルダーリッドパネルに採用されています。
— バイオエンプラ新意匠2層成形技術を実現するにあたって一番苦労した点について教えてください。
光の角度によって表情を変えるには、光の反射をうまくコントロールする必要があります。着色剤・光輝材のような材料をどのくらい調合するか、表面の凸凹形状の柄の高さや傾斜角度をどの程度にするか、板厚はどのくらいがいいか、何百回、、いや何千回も試行錯誤を繰り返しました。
また200-300℃に溶かした樹脂を金型に入れて製造するため、樹脂と樹脂が溶けてしまわないように狙いの形状を維持したまま完成させることにも大変苦労しました。
やっとのことで納得いくサンプルができあがり、デザイン部からも高評価をいただけたときは本当にうれしかったです!
— 黒系統以外の他の色や、他の柄を表現することも可能なのでしょうか?
可能です。
こちらは試作品ですが、赤色の木目調をデザインしてみました。このような意匠を表現することもできます。
— 技術が進化することで、よりデザインの幅が広がっていくということですね。
そうですね。実は2023年3月に発売されたMAZDA2のインパネにもバイオエンプラが採用されており、ホワイト系・ブルー系・ブラック系の3色の色味に表面にテクスチャー(凹凸形状)を施すことで光の角度によって柄が浮かび上がる意匠を表現しています。
(左:新たな意匠を表現したMAZDA2のインパネ、右:MAZDA2外観※エアストリームブルーメタリック)
技術を進化させていきつつも、デザインニーズや採用部品のニーズによって技術を使い分け、さまざまな意匠性の幅を広げていきたいと思います。
■カーボンニュートラルの貢献において大切なのは、「お客さま」「作り手」「環境」三方良しであること
— 最後に、一原さんのことについて教えてください。一原さんは最初からバイオエンプラ開発に携わってこられたのでしょうか?
はい、過去から現在まですべてのプロジェクトに関わらせていただきました。実は学生時代からバイオプラスチック領域に興味を持っており、大学院でバイオプラスチックについて研究していました。そこでたまたまですが、マツダとの共同研究をしていました。
学生時代から興味を持っていたバイオプラスチックを実際に世の中に広めたいという想いでマツダに入社しました。
そこから現在までずっとこの領域に携わらせていただけているのは大変ありがたいことですね。
— 一原さんのバイオエンプラの開発にかける想い、そして今後の展望について教えてください。
カーボンニュートラルに貢献していくために、環境を考慮することはもちろん前提にありつつも、お客さまにとっても我々にとっても、我慢しない、無理のないエコという視点を大切にしています。お客さまへの提供価値、サステイナブルな世界、コスト。これらをすべて両立し、三方良しのお互いウィンウィンの関係をつくることがポイントと考えています。
例えばカーボンニュートラルでもインフラの整備や物価高などさまざまな社会情勢がある中ですべてをウィンにさせることは難しいです。
ただ逆に言えば、すべてウィンになれば、自然かつ一気に広がっていくものだと思っています。
マツダが積極的に活用していくことで需要と供給のバランスを高めていき、カーボンニュートラルな社会に貢献する活動をリードしていきたいという強い想いを持っています。
今回三方良しのバランスがうまくいったのがバイオエンプラですが、それは一つの手段。
今後も引き続き、世の中の動向、ニーズによって最適なものを選択し、技術開発を進め続けていきたいと思っています。
現状に甘んじることなく、マツダの走る歓び、所有する歓びをさらに進化させたものを提供し続け、お客さまから愛していただけるクルマづくりをしていきたいです。
いかがでしたでしょうか。
今回はカーボンニュートラルの社会の実現を目指す一つの取り組みとして、バイオエンプラ開発をとりあげました。
マツダの取り組みはこれだけではありません。さまざまな領域で一つ一つの小さな取り組みを積み上げ、環境にやさしい社会に積極的に貢献していきます。