インテリアデザインの裏側、カラーデザイナーの素顔。― CX-3 特別仕様車「Exclusive Mods」―
デザイナーという仕事。
クルマのイメージを膨らませてスケッチを描いたり、形や色を造りあげたり、素材を選んだり・・・何となく想像できる部分もありますよね。
一方で、クルマを完成させるまでに何をしているのか、いつもどんなこだわりを持っているのかなど、知らないところもあるのではないでしょうか?
そこで今回のブログでは、デザイナーの「普段」に少しでも迫りたいと考えました!!
応えてくれたのは、マツダのデザイン本部プロダクションデザインスタジオの李 欣瞳(リー シントン)。
カラー&トリムデザイン担当として、インテリアの配色や素材の組み合わせ、ステッチなどディテールの仕上がりをデザインしています。
「イメージ通りに、とても満足のいく作品ができた」と語る彼女の最新作、CX-3の特別仕様車「Exclusive Mods(エクスクルーシブ モッズ)」での仕事について、色々と聞き出してみました。
Exclusive Mods=似合う人に似合う特別なクルマ
―まず「Exclusive Mods」という名前に込めた想いは?
Exclusiveは「高級で限定的な、唯一の」、Modsは「流行の最先端をいく人」という意味があります。
似合う人に似合う特別なクルマにしたい、という想いを込めて名付けました。
―似合う人に似合う、とは?
例えば、パリコレなどのファッションショーでランウェイを歩くモデルさんの衣装を想像してみてください。
誰もが似合うわけじゃない、似合う人にしか似合わない、でもそれがいい。
そんな「ハイエンドで先鋭的」なものをクルマで表現し、お客さまへの選択肢として提供したいと思いました。
ただし、ハイエンドすぎて「日常からかけ離れた」表現では、クルマとしてお客さまとの間に距離感を作ってしまいます。そこで、「Exclusive Mods」では先鋭さの中にも、しっかりとした上質さのある素材使いに重点を置きました。
そして、この世界観に共感してくれる人に乗ってほしいと思っています。
色の数には頼らない 「引き算の美学」
―「先鋭かつ上質」な素材使いで工夫したポイントは?
この企画をスタートさせた時、「今までのCX-3を超えるものをつくってほしい」と言われました。
でも、そもそもCX-3は、マツダのラインナップの中でも「尖っていて、エッジー」なクルマ。
常に先鋭で上質な方向に進化してきたCX-3を、さらにランクを上げて仕上げるということに、最初はとても悩みました。
そこで出した答えが、最近のマツダデザインにおいても語られることの多い、「引き算の美学」です。
上級グレードの「L Package」では、白とグレーと赤の「3色」でコーディネートされています。それに対して「Exclusive Mods」では配色を1つ減らした「2色」にしてはどうかと考えました。
そして色を2つに減らす代わりに、明るい白系と深みのあるブラウン系によるハイコントラストに仕上げ、シャープでパキッとした先鋭さを表現する。「シンプルで潔い!これだっ!」と、確信しました。
―こういった提案に対する反応は?すんなり社内で承認されるのでしょうか?
クルマは一人では作れないので、やはり色々な人の意見を聞く必要があります。
大枠では合意を得られたのですが、「白とダークブラウンの組み合わせでは、コントラストが強すぎるのではないか?シートのステッチくらいはコントラストを和らげるよう、ベージュにしてみては?」などの意見はありました。
―それを受け入れた?
実はデザイン検討の途中までは、その「ベージュのステッチ」で話が進んでいました。
ただ、どうしても、腑に落ちなかったんです。シャープでパキッとした先鋭さ出すためには、やっぱりハイコントラストにすることが必要だと。
その想いを、改めてみんなに伝えました。
タイミング的にもギリギリでしたが受け入れてもらい、白のステッチにつくり替えて当初の提案を貫くことができたんです。
想いが強いと、結構サポートしてもらえます。ここは、「マツダらしい」ところかもしれませんね。
―そのハイコントラストが、このディープレッドとピュアホワイトの組み合わせなんですね。確かにキレがあり、無駄のない印象です。
目の錯覚も操る
―ここでほっと一息、安心できました?
いいえ(笑)
潔さを演出するため、インパネやドアトリムを白で統一し、エアコンルーバーベゼルの内側の色も白が使われる予定でした。
しかし明度の高い「素直な白」はサイドウィンドウに映り込み、サイドミラーの視界を妨げてしまうとの指摘。これでは、断念せざるを得ません。
赤を使ってはという案も出たのですが、それでは貫いてきた2色構成の表現がくずれてしまう・・・
そこで、少し発想を変えました。
人の目は色を認識する際に、周囲の色にも影響され、錯覚が起こります。
視界の妨げにならないよう色のトーンを少し暗くしたとしても、組み合わせの妙で白に見えるようにすることで解決できないかと考えました。
この画像を見てください。リングそのものは同じ色ですが、左は白く見え、右ではグレーに見えると思います。
これが採用した「ライトグレー」のマジックです。外側のリングの色が一段暗いシルバーなので、ライトグレーでもピュアホワイトに「見える」ようになっています。
機会があればぜひ実車で確認してみてください。白にしか見えないと思います。
素材の加工方法にも
―ここまでは色の話でしたが、それ以外にも何か苦労した点はありますか?
シートのステッチですかね・・・
「Exclusive Mods」ではディープレッドのシートに、よりシャープさを出すための白いアクセントラインを入れ、かつ華奢に見せないようラインの両端にステッチを施しています。
シートの素材は、なめらかで上質なナッパレザー。
その表面には、通気性や吸音性のために細かな穴をあけた「パーフォレーション加工」がされています。
この穴の影響で、ステッチの糸を通すと蛇行してしまい、真っ直ぐできれいなラインが縫えない問題が発生しました。
これが、当時の検討用サンプルです。
そのため、蛇行が目立つ白ステッチを諦めてディープレッドと同調する暗いステッチにするか、素材自体のパーフォレーション加工をなくして白ステッチをキープするか、の二択になりかけました。
でも、この通り、どっちもピンとこなくて・・・
―確かに、素材や色ひとつでとても印象が変わりますね。そこで出した答えは?
ステッチの糸が通る部分だけパーフォレーション加工の穴をなくして、白いステッチをバッチリきれいに通せないかと考え、材料の加工段階から何とかしてくれないかと提案しました。
この工夫は私が考えたのではなく、よくみられるものです。でも手間もコストも掛かるので、クルマではプレミアムメーカーでの採用がほとんど。それでも、ダメ元で主査に相談に行きました。
―すると?
「全力でサポートするから、フルスイングしてくれ」と背中を押してもらい、逆にびっくりです。
一部のみパーフォレーション加工を行わないため、素材の工程から見直ししてもらわないといけません。また、革1枚からとれるシート部分の素材が限られてしまうので、上質なナッパレザーの使い方としても究極の贅沢です。
でも、こうしてフルスイングが出来たからこそ、白いステッチのラインをきれいに引くことができ、アクセントラインをより際立たせたシートを完成させることができました。
こだわることの大切さ。こだわらないことの楽しさ。
―ところで、デザイナーというと、こだわりが強いイメージもありますが、普段好きな色やファッションは?
私の場合、こだわりももちろんありますが、こだわらないことの楽しさも大事にしています。
所有している小物の色は揃えていませんし、ファッションの系統も日によってバラバラです。
「このカタチだったらこの素材のこの色がいいかな」とその場で好きなものを買っています。
モードな自分はこの姿、カジュアルな自分はこんな雰囲気、と気分に合わせてファッションやデザインを楽しみたいです。確かに、飽き症な部分もありますが・・・(笑)
自分と言う人間にまで「こだわりのスタイル」を決めてしまうと、私生活では先入観が働いて自分にはこれは似合わないって思ったり、仕事では幅広い提案ができなくなるような気がします。
その時の気持ちや発想を大切にしたいので、こだわりなく真っ白な状態でいたいな、と思っています。
ファッションショーでランウェイを歩くスーパーモデル達の服装はこだわりにこだわったものですが、最後のカーテンコールで登場するデザイナー本人は意外にTシャツにデニムみたいな姿だったりしますよね?
それに近い感覚なのかもしれません。ランウェイを歩くのは車で、私は作る側なので。
―最後に、カラーデザイナーという仕事に対する想いを聞かせてください。
座るときにどういう気持ちになってもらえるか、どういう街並みに合うクルマにするか、どんな人に似合う1台にするか・・・こんなことを想像しながら仕事をしています。
さまざまなイメージのピントを合わせながら想像したものを、街で走る商品に創造する。
そして、自分が手がけたクルマが世に出る時の達成感は、ほかには代えがたいものですね!!
―今日はとても楽しく聞かせてもらいました。ありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました!
CX-3特別仕様車「Exclusive Mods」、想いを貫きフルスイングした特別なクルマです。
ぜひよろしくお願いします!!
以上、CX-3特別仕様車「Exclusive Mods」の、インテリアデザインの裏側とカラーデザイナーの素顔、いかがでしたか?
インテリアはドライバーにとって一番接する場所。
だからこそ、クルマを決めるときにも大きなポイントのひとつとなるはずです。
そして、そこには細かな技が折り重なって、一つの空間を造りだしています。
皆さんの愛車にも、より愛着がわくような技が潜んでいるはず。
改めて、愛車に座って、じっくり眺めてみてはいかがでしょうか。
そして、どんな人たちがデザインしたのか、想像してみるのもおもしろいかも知れませんね!!
■CX-3特別仕様車「Exclusive Mods」の詳細はこちらをご覧ください。
http://www.mazda.co.jp/cars/cx-3/special-vehicles/exclusive-mods/