【CX-5 開発の舞台裏⑥】舞台裏の274部品。「マツダに乗る歓び」をより大きなものにするために
CX-5の開発に深く携わった、エンジニアやデザイナーをご紹介する、「CX-5開発の舞台裏」シリーズ。
第6回目の今回は、ドアを開いたときの見栄えやタイヤハウスの中など、普段目に付きにくい領域の美しさを追求した、「準意匠活動」のメンバーが登場します。
この活動の対象となった部品点数は、なんと698点。 部門の壁を超えて「“今まで通り”を疑う」活動とは、一体どんなものだったのでしょうか?
目次
存在を消すことで生まれる美しさとは
マツダには『準意匠』と呼ぶ活動がある。
ドアやリアゲートのボディ開口部、タイヤハウス内、インテリアのフィット&フィニッシュなど、お客様の目につきにくい領域やディテールまで踏み込んでより美しくつくり込んでいこうという取り組みだ。
呼称にこそ『準』と付くが、その中身は極めて重要だ。エクステリアデザイナーとして、この活動をリードしてきた井口泰規(いぐち やすのり)は言う。
「準意匠をよくするとは決してカッコよくすることではありません。存在を消していくことで生まれる美しさを追求するのです」
これまでは、設計データがほぼできあがった後でデザイナーがチェックする形を取っていたが、それでは見栄えを改善できる範囲が非常に限られる。
そこで、CX-5では初めて、開発初期の段階から専任デザイナーを置き、準意匠活動をスタートさせた。
視覚的なノイズを消すことで、デザインの魅力の純度を高める
井口は、開発初期からエンジニアと共創活動をするにあたり、何をもって美しいとするかの基準となる5つの視点を設定した。技術畑のメンバーに、デザイナーと同じ美的感度を求めるのは難しいからだ。
すべてに共通するのはとにかくシンプルにしようということで、つまりそれが井口の言う、存在を消すことの真意。視覚的なノイズを消すことで、エクステリアやインテリアデザインの魅力の純度を高めようということなのだ。
ボディCADグループの藤川真司(ふじかわ しんじ)は、「マツダのデザインが評価をいただいている中、設計陣としても、機能的な意匠をもっと美しくつくり込みたいという強い想いを持っていた」と言う。
部門の壁を越えて「今まで通り」を疑う活動
設計、クラフトマンシップ開発、生産技術、デザイナーによるタスクチームが組まれ、部門の壁を超えて『今まで通りを疑う』活動が始まった。
ボルト1本からラベル表示に至るまで、ひとつひとつ丹念に改善の道を探っていくのだ。
例えば、荷物の出し入れのときに必ず目に入るリアゲート開口上部のコーナーは、ヒンジやダンパーなどの機能部品が多く集まっており、鉄板のプレス形状が複雑になりやすい。
そこで、面の形状やラインの流れがシンプルになるよう、各部品の形状を0.1mm単位で根気強く調整していった。その結果、すっきりとした見栄えとともに、製造工程での組み付けが容易になるなど、様々な相乗効果を得ることができた。
ボディ設計グループの阪本康仁(さかもと やすひと)は言う。
「私たち設計者も、決して形はどうでもいいと思っていたわけではありません。ですが、通常通りのプロセスでつくったデータを3Dプリンターで立体化して、井口さんの掲げた5つの視点に基づいてよく見ると、残念ながら若干ラインが蛇行しているのが分かったのです。
「デザイナーの感度がすぐに身に付くわけではないので、指摘を受けてはその意図を理解するために繰り返し実物をつくり、少しずつ感度を磨いていきました」
(写真左:車両設計部 阪本、写真右:タスクチームによるディスカッションシーン)
井口が目指すのは、「エンジニア自身のデザインに対する意識を高めていくこと」。
藤川も、「これからもデザイナーのセンスを盗みながら、今後のクルマづくりに生かしていきたい」と意気込む。
見栄えの美しさだけでなく、心地よさも生み出すインテリア
インテリアでも、視覚的にすっきりした空間づくりを進めた。
天井まわりでは、天井を固定する部品を表面から隠すと同時に、天井の段差をなくしてなだらかな形状にすることで、後席からの視覚的な広がり感を演出した。
インテリアデザイナーの門田幸憲(もんでん ゆきのり)は言う。
「人間にとっては実際の寸法だけでなく、心理的に広さを感じられるかどうかが大切なのです。段差という視覚的なノイズを消すことで、見栄えの美しさだけでなく心地よさもお届けできる。この活動には多くの副産物があるのです」
一方、トリムを担当する内装設計の坂口広将(さかぐち こうすけ)が特にこだわったのが、普段目につきにくい荷室を上質に造り込むことだった。
坂口らは、床面だけでなく両サイドにも毛足のある不織布を貼り、視覚的にも触感的にも統一感のある上質な空間に仕上げた。
さらには、室内の優れた静粛性に寄与できるよう、リアシートをリクライニングしたときの背もたれと荷室との隙間をできるだけ小さくすることにも注力している。
「見栄えをよくするならば、それが機能・性能の向上につながるような改善に取り組みたい」
それが坂口の一貫した想いである。
こうした念入りな準意匠活動の対象となったのは、全部で698点におよぶ。
そして実際に改善を加えた部品点数は、エクステリアで225点、インテリアで49点、総数は実に274点に達する。
準意匠活動は、確かに表舞台に出ることは少ないかもしれない。
しかし、カーライフを楽しむ中でのふとした瞬間、例えばお客様が洗車をしたとき、タイヤ交換をしたときなど、マツダ車の魅力を陰から支えるこの活動の意義は大きい。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました!
最終回となる次回は、CX-5のダイナミック性能についてご紹介します。どうぞお楽しみに。
▼【CX-5開発の舞台裏】これまでの連載
①目指したのは、すべての乗員が走る歓びに満たされるクルマづくり
https://blog.mazda.com/archive/20170608_01.html
②マツダらしさ、日本らしさにこだわり、魂動デザインをより高い次元へ進化させる
https://blog.mazda.com/archive/20170615_01.html
③チームを超えたコラボレーションで実現したエクステリアデザイン
https://blog.mazda.com/archive/20170622_01.html
④ブレない想いで到達した、ひとつ上のインテリアデザイン
https://blog.mazda.com/archive/20170703_01.html
⑤色のエキスパートたちが挑んだのは、本能が美しいと感じる光をつくり込むことだった
https://blog.mazda.com/archive/20170713_01.html