【CX-5 開発の舞台裏③】チームを超えたコラボレーションで実現した、エクステリアデザイン
CX-5の開発に深く携わった、エンジニアやデザイナーをご紹介する、「CX-5開発の舞台裏」シリーズ。
第3回目の今回は、エクステリアデザインを担当したデザイナー2名が登場します。
開発途中の貴重なスケッチや、クレイモデルの写真をもとに、CX-5のデザインができるまでを詳しくご紹介します。
多様な視点、感性、経験のコラボレーションが、目指すべきデザインへのブレークスルーを起こした
エクステリアデザインを担当する椿貴紀(つばき たかのり)にとって、SUVの力強い存在感と上質さを融合させる、CX-5のデザインキーワード“Refined Toughness(リファインド・タフネス)=洗練された力強さ”の考え方は、強く共鳴できるものだった。
しかし、それには現在の魂動デザインの真髄をより深く理解し、一段高いレベルへと押し上げなければならない。
生命の力強さをダイナミックな線や面で表現するだけのアプローチでは、お客様の心の琴線に触れる研ぎ澄まされた美しさは表現し切れないからだ。
初期のスケッチはどれも方向性にブレはなかった。
しかし、スケッチでこれはいけると思えたアイデアも3Dデータにしてみると何かが違う。
3Dデータを2Dデータに戻して修正し、さらにデータをモデル化して立体でも検討するという作業を幾度となく繰り返した。
そしてプロポーションが高い評価を得るなどして、ようやくデザインが固まったように見えたのだが、彼らは次のステップに進むことを思い留まった。
「みんなモヤモヤしていました。確かにいいところまで来てはいるが、これでいいのか、この先はないのか、本当にこれがゴールなのかと。どうにも満足しきれないのです」
プロセスに残された時間はほとんどなかった。
しかし、辿ってきた経緯や制約を一旦忘れて、もう一度本当の理想の姿をスケッチで描き直そうということになった。
自分たちが目指すデザインの近くまで来ているのに、それを突き詰めずに終わらせることは、どうしてもできなかったのだ。
彼らは心機一転、CX-5担当という垣根を越えて、コンセプトカーなどを担当する面々から、新進気鋭のルーキーまで様々な人材に声をかけ、スケッチの共創を行った。
その結果、ボディサイドの面造形にはアドバンススタジオの提案が活かされ、リアには若手が描いたアイデアが採用されるなど、多様な視点、感性、経験のコラボレーションが、目指すべきデザインへのブレークスルーを起こし、1枚のスケッチが完成した。
機械であることを超えて、魂に訴えかける1台をつくりたい
ここから先も話は簡単ではない。
スケッチは、平面イメージであるが故に、寸法に縛られず表現されているが、ここから複数のクレイモデラーが、自分の解釈と感性で立体をつくり込む。
要は、モデラーの数だけ異なったニュアンスのクレイモデルができるのだ。
無論、ミリ単位の違いではあるが、そのわずかな差がデザイナーの造形意図を際立たせたり、あるいは意図していなかった美しさを引き出したりする。
社内に約30名いるクレイモデラーの中でも『トップガン』と呼ばれる数名の匠モデラーも加わり、1枚のスケッチから、微妙にニュアンスの異なる5つの1/4モデルが現実の世界に姿をあらわした。
(写真:クレイモデルを確認する、常務執行役員 前田 育男(まえだ いくお))
そして、検討を重ねて残った2つのモデルの良さを最大限に生かした究極の1台をつくり上げた。
椿とともに初期から活動した、クレイモデラーの助川裕(すけがわ ゆたか)は言う。
「マツダにいるのは皆、提案型のクレイモデラーです。スケッチのどこを見せ場と考えるか。面のつくり方が柔らかいかシャープか。デザインの意図だけでなく、そこに込められた本質的な哲学など、眼に見えないものまで形にしていくことを求められます。」
「そのために、モデラーがそれぞれ感覚を研ぎ澄ませ、独自の感性を持っていることこそマツダらしさであり、デジタル全盛のいまの時代にあっても、決して変わることはありません」
こうして、マツダデザイン内で言う『ご神体』と呼ばれるフルスケールモデルが生まれた。
寸法の制約を受けない理想の姿を前に、ここから本当の生みの苦しみが始まる。
量産に向けて、数値を司る設計陣との協業が本格化するのだ。
造形面を測定したデータを幾度となく交わしながら、最初は20mm程度の調整でスタートし、ブラッシュアップが進むにつれて10mm、5mm、3mm、1mmと厳密になり、ついにはまったく動かせないところまで追い込まれる。
完成した、量産に向けた最終のクレイモデルと実際の量産車の寸法を比べると、一般的な誤差の許容範囲は1~5mmだが、マツダのモデラーに許されるのは0.1~0.3mmである。
それを支える造形力と精度の高さで、『ご神体』で示した魅力を損なうことなく昇華させて、お客様のもとに届けるのだ。
ディテールに目を移すと、奥行き感を強調したフロントグリルには、三角錐をかたどった小さなパーツが四方に連なり、さらにグリル全体が凹面を描いている。
奥行きが深くて中が真っ暗なエアインテークと、浮かび上がるようなブランドシンボルをイメージしたこのグリルは、単純にひとつひとつのパーツを横に連ねただけでは理想の見え方をしなかった。
そこで、ひとつひとつのパーツの向きを繰り返し調整し凹面に沿うように変化させながら連ね、さらにその形状も、データ、試作、塗装を繰り返し、仕立ての良さを感じられるレベルにつくり上げた。
いわば目に触れにくい部分も徹底的につくり込む姿勢には、理想を求めて挑戦し続けるマツダらしいこだわりと、精緻であることに妥協を許さない日本の感性が息づいている。
椿は言う。
「このクルマのデザインは間違いなく、本質と向き合おうとするマツダのDNAから生まれ、機械であることを超えて魂に訴えかける1台だと自信を持って言えます。上質さを大切にする大人の感性を持つ方々に、このクルマを楽しんでもらえたら最高に幸せです」
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最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました!
次回は、CX-5のインテリアデザインについて詳しくご紹介します。どうぞお楽しみに。
▼これまでの連載
【CX-5 開発の舞台裏①】
~目指したのは、すべての乗員が走る歓びに満たされるクルマづくり~
https://blog.mazda.com/archive/20170608_01.html
【CX-5 開発の舞台裏②】
~マツダらしさ、日本らしさにこだわり、魂動デザインをより高い次元へ進化させる~
https://blog.mazda.com/archive/20170615_01.html