【CX-5のデザインができるまで #3】エクステリアデザイナー岩尾さん
この記事は、過去Facebookに掲載した記事です。
「CX-5のデザインができるまで」
第3回目はエクステリアデザインチーム リーダー岩尾さんに、「プロセス2:スケッチを描く」について話を聞きました。
“デザイナーは、最初のコンセプトから最終のモデルまでを一貫してみる指揮者。”
CX-5のエクステリアデザインチームは5名。メインチームがデザインを手がけるのが基本スタイルですが、1台のクルマをデザインするためには多くの人の協力が必要です。
まずは全員がフリーでアイディアを出してコンペティションをします。
そこで選ばれたアイディアをもとに1/4スケールモデルを作り、次に1/1スケールモデルを作り最終的に1案に絞り込んでいきます。
デザイナーは、ただ最初にクルマのデザインを描いて終わるのではなく、初期段階であるコンセプト開発にも参加し、モデラーと対話しながらモデルを創ったり、デザインが実際の製品になるかをエンジニアと相談しながら、商品が完成するまでのすべてに関わっていきます。
法規や国によって異なる制約条件をクリアし、いかにオリジナルのデザインに近づけるか、日々挑戦し続けています。
“一枚の紙の上に、自分の持つ世界観を描くことがはじまり。”
デザイナーは「紙」と「ペン」を使ってフリーハンドで描きます。
まずは一枚の紙の上に、自分の持っている世界を描いていくところからデザインは始まります。
エ クステリアをデザインする時は、決してクルマの外観を描くことだけに捉われているわけではなく、そのクルマに「人」が乗った時、どういう世界をこのクルマ で走るのか、どんな対話が「人」「情景」「クルマ」のあいだで生まれるのか、そういうところまで想像しながらデザインしていきます。
例え ば、このクルマがビルのショーウィンドウにどう映れば美しく見えるのか、クルマがたくさん走っている中でどういう存在であるべきか、デザインテーマ“魂 動”にあるチーターの躍動感、大地を駆け抜けるさま、そのエネルギーを体現するにはどういうスタイルになるのか、というところです。
まずはフリースケッチで、そのエネルギーの動きをどのようなリズムで構成していくかを考えていきます。
“目指したのは、「動」「質」を感じるマツダらしいSUV。”
従来のSUVは、強くてどっしりとしたイメージが強く、座っているような印象がありますよね。CX-5はSUVでありながら、 “魂動”テーマでも掲げている「動き」の表現を入れたいと思いました。
でもあまり「動き」の表現を入れすぎると、本来SUVが持つ「強さ」や「守られている感じ」が弱まる可能性があり、そこでのバランスをとるのがとても大変でした。
SUV についていろんなスタディをし、無数のスケッチを描き、あらゆる側面から検討を重ねながら、グローバル市場でも戦えるSUVとは何かと考えた時、導きださ れた答えが「大きな骨格で動かすこと」と「塊の強さ」。さらに、チーターが獲物を狙って飛び出す瞬発力のような「動き」が、マツダの新しいSUVには不可 欠だと考えました。
実際にCX-5をご覧いただけるとお分かりになると思いますが、このクルマは少し前傾姿勢しています。「チーターが獲物を狙って飛び出す一瞬」を造形の軸とし、ボリューム感のある動きを持たせることで、グッと引き締まった塊の強さを表現することができました。
CX-5から少し離れた位置に立ってクルマを一周してみてください。そして走ってくる姿を見てみてください。クルマに映り込む街の景色や光の反射の動きが、走っている動物の筋肉の動きをイメージさせ、まるでチーターが走ってくるかのように見えるはずです。
また、今回のCX-5はフルSKYACTIVで、デザインも新しいデザインテーマ“魂動”になり、技術も表現も進化していますが、運転の基本となる部分も本物であることにこだわりました。
例えば、Aピラーを後ろに引いているところ。視界が広がり、開放感が生まれるのと同時に、ボンネットが広く見えるのでSUVらしい頼もしさにつながっています。
僕がデザインしていく中でのキーワードのひとつが「女性にとってボディガードのような存在」。開放感と包まれ感がバランス良く両立できているので、女性が乗っても安心できるはずです。
エクステリアでは、ただカッコイイという点だけを意識するのではなく、室内空間のあり方も並行して考えながらデザインしています。
“難関だったのは、「初めての試み」と「普通でない」こと。”
CX-5の「フロントフェンダー」は、チーターが獲物を狙う瞬間をイメージし、隆起させてからねじるという三次元的な処理をしています。
ハイライト面を通すのがこれまでの処理ですが、今回は光の反射に動きを持たせるために、面にも三次元的な動きをつけた「普通でない」処理にしました。
これはスケッチの段階から考えていて、モデラーとクレイを削りながら何度も繰り返し検討していきました。
もうひとつ難しかったのが、今回初めての試みだった「ウイングシグネチャー」。
デザイン上で「こうやりたい」と思っていても、このウイングシグネチャーは周囲の構成する面が多いので制御が難しく、品質が乱れる可能性が高まります。特に、シグネチャーがフロントからランプの中に通っていくところが大変で、その部分だけのモデルを作ったほど。
でも最終的には、精悍な顔つきに仕上げることができました。
“受け継がれ続けているマツダらしさは、「一体感」。”
デザインにおけるマツダらしさは、「クルマを塊として見ている」ということ。
前、横、後ろ、上というふうに分けてデザインせず、どんなビューであっても、常に魅力的に見えるということ、大地に踏ん張っていることを考えているので、デザインに破綻がないのです。
街を走るクルマを見ると、ボディへの映り込みや光の反射が連続して動いて見えるのはそのせいです。
また、マツダのデザインチームはデザイナーとモデラーがお互いに提案し合える環境にいます。チーム全体がひとつになっていることが、マツダらしいクルマを育んでいるのだと思います。
“クルマの向こう側には、いつも「人」がいる。”
デザインをする時に大切にしているのは、「物事を決めつけずに、常に可能性があると考えること」。自分でゴールを決めてしまうとデザイナーはそこで止まってしまいます。
生き方も同じで、常に何かに挑戦しています。
初めてのことに挑戦することで、新しいものが生まれたり、今まで見えなかったことが見えてきたり。
やはりクルマは「人」のためにあるので、いろんな経験をし、たくさんの人に接して、「人」を知ることが大事。そして常に「このクルマを通じて、人にメッセージを送っている」という意識を持つようにしています。
自動車メーカーは、クルマを売ればそれで終わりというわけではなく、「買った人がクルマとどういう世界を築いていくのか。」というところまで責任を持たなければいけないと思っています。
だから、「ふとした瞬間に気づく、小さな喜びがいっぱい詰まったクルマ」を作っていくことが、長く愛されるクルマづくりにつながっていくのだと考えています。
CX-5には、多くの夢が詰まっています。あらゆるところに散りばめられた魅力をクルマと対話しながら見つけて欲しいと思います。
次回は、インテリアデザイナー斎藤さんです。
お楽しみに!