MAZDA BLOG
2019.2.25

ロードスター商品改良 開発秘話:第3回「サウンド性能開発」

今年で30周年を迎えた、「マツダ ロードスター」。

このたび、公式ブログでは30周年記念車のベースになる2018年商品改良モデルについて、現行の「ロードスター RF」に搭載されたエンジン「SKYACTIV-G 2.0」開発の舞台裏をご紹介します。

今回の第3回はパワートレインに関わる様々な音、「サウンド性能開発」です。ぜひご覧ください。

(なお、SKYACTIV-G 1.5と共通する改良技術については、「1.5L・2.0L共通」と記載しています)

 

 

パワフルで心地良いサウンドを届けるために

2つの視点からのブレークスルー

 

高回転出力と低中速のトルクアップの両立を果たした「改良型 SKYACTIV-G 2.0」。

目標としたのは、新型エンジンの個性をさらに引き出す、パワフルかつ心地良いサウンド。

その実現には、ドライバーが理想とする「気持ちの良い音」を調律し、さらに不要なノイズ音を限りなく取り除くことが求められました。

 

そのため、2つの視点から開発がスタート。

1つ目は、「心地良い音だけを届けるコンサートホールの整備」、そして2つ目は「心地良い音色を奏でる楽器造り」です。

ロードスター商品改良秘話

 

 

回転変動の抑制により

軽快なレスポンスと歯打ち音の解消を両立

 

フライホールとクラッチの設計領域を担当した朝倉浩之(あさくら ひろゆき)は、こう語ります。

「高回転化しパワーアップしたエンジンには、その性能に相応しいパワフルなサウンドが求められます。特にロードスターはスポーツカーなので、音の面でも『パワフルに走っているぞ!』とドライバーが感じ取れる音が出せるか否かは、車全体の仕上がりを左右する重要な部分です」。

ロードスター商品改良秘話 ロードスター商品改良秘話
パワートレイン開発本部 朝倉

 

ロードスターの持ち味である軽やかな意のままの走りは、ドライバーの操作に極めて軽快なレスポンス(応答性)の良さにより実現されています。

従来は、ロードスターに代々採用されてきた「シングルマス軽量フライホイール」が、この性能を引き出していました

ロードスター商品改良秘話
従来のシングルマス軽量フライホイール

 

マニュアルトランスミッションの開発を30年以上手掛ける、中島宏幸(なかしま ひろゆき)。

「軽量フライホイールのまま高回転・高出力化した場合、回転変動が大きくなりトランスミッションの中でギアが暴れて歯打ち音が発生します。NVH*性能だけで見れば、フライホイールを重くすればエンジンも安定して騒音も出ない。しかしライトウエイトスポーツ(LWS)の代名詞であるロードスターで、レスポンスの良さをノイズ解消とトレードするわけにはいきません。軽快レスポンスとノイズ解消の両立。これが我々に課された使命でした」と振り返ります

*NVH:Noise Vibration Harshnessの略。振動・騒音・ハーシュネスといった自動車の快適性能をつかさどる要素

 

ロードスター商品改良秘話ロードスター商品改良秘話
パワートレイン開発本部 中島

 

ブレークスルーとなったのは、回転変動を大幅に吸収できる「デュアルマスフライホイール(DMF)」の開発。しかし、通常のDMFでは2枚のプレートを使う分重量も重くなり、クルマのレスポンスは悪化。つまり、ロードスターにはふさわしくない性質も持ち合わせていました。

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低イナーシャ(慣性モーメント)デュアルマスフライホイール(エンジン側とミッション・クラッチ側に分かれてホイールがついている)

 

「そこで関係者だけの試乗会を実施。DMFとSMF(シングルマスフライホイール)それぞれを搭載したロードスターを皆で乗り比べました。試乗会の結果、意見は満場一致で“チャレンジする価値あり”となったのです」と中島は振り返ります。

DMFが搭載されたロードスターが奏でる、雑味のない極めてクリアな音質。これは、明らかにワンランク高いクルマへのステップアップをエンジニアたちに直感させました。

ロードスター商品改良秘話 ロードスター商品改良秘話
ロードスターのサウンド開発風景

 

サプライヤーや設計、走行環境性能開発が一丸となり、共に形状検討を繰り返した結果、朝倉たちは従来の常識からは考えられないレベルで、回転変動と歯打ち音を大幅に低減する低イナーシャDMFの開発に成功しました。

質量は軽量フライホイールとほぼ同レベルの強度を保てるギリギリのラインにまで落とし、軽快なレスポンスを維持。歯打ち音は、人の耳には聞こえないレベルにまで落とすことを可能にしたのです。

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新たに開発されたDMF(質量はシングルの軽量フライホイールとほぼ同じレベルまで軽量化されている)

 

中島はこう振り返ります。

「実は2015年の4代目ロードスター開発の時からDMFの採用は考えていました。ただ当時はまだレスポンスやパフォーマンスフィールを阻害する要素を完全に取り除くことができず、見送りになったのです。悔しかった。我々にとって今回は3年越しのリベンジなんです。しかも今度は、エンジンが高出力化し影響がさらに大きくなる。なんとしてでも量産化にこぎつけたい。その一心でした」。

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左:プライマリープレートの曲げ強度等CAE解析、右:セカンダリープレートの熱ひずみ等CAE解析

 

エンジニアたちの熱い想い。それが最高のコンサートホールを産み出しました。

そして、シーンは「コンサートホール造り」から「楽器造り」へと移ります。

 

 

パワーアップに相応しいサウンドで

ワンランク上のロードスターへ

 

力強い音と、軽やかな伸び感のある音を両立させたロードスターRF。

音作りでは、年々強化される車外騒音規制への適合、あらゆる走行シーンで快適なドライビングを極め、そして、ロードスターとしての音質、音圧など、狙うべきスイートスポットは極めて小さな範囲に絞られます。

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今回の開発にあたりサウンド性能の限界を引き出すスイートスポットを特定

 

「ロードスターでは力強い音と同時に、伸び感のサウンドが重要。狭いスイートスポットに入っているか、ベンチや実車で検証しながら改良に次ぐ改良を設計に要求しました。

また、海外拠点メンバーと一緒に試乗会を繰り返す中で、MT車とAT車ではエンジンの使われ方が違い、同じサイレンサーではスイートスポットに入らないことに気づき、結局それぞれ専用部品の開発が必要だと設計に要求しました」。

こう語るのは、NVH性能開発の三宅昭範(みやけ あきのり)。

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NVH性能開発 三宅

 

 

エンジンをパワーアップさせつつ、排ガス拡張により

パワフルな音質を造りながら、こもり音を抑制

 

PT設計を担う志村直紀(しむら なおき)は、開発で目指した音を「パワフルでクリアな音」と語ります。

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パワートレイン開発本部 志村

 

「心地良くて力強いサウンドとは、低い周波数の音を指します。問題となったのは、人にとって不快な音である“こもり音”も同じく低い周波数帯の音であること。また低周波の音を抑えるには大きなサイレンサー容量が必要となりますが、レイアウトスペースには限りがあることです。単純にパイプを絞れば音も小さくなりますが、それでは排ガスの流れが悪くなりエンジン出力の低下をまねきます」。

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左:周波数が低いほどこもり音は発生しやすくなる、右:こもり音とは、耳が圧迫され、頭を押さえつけられるような低い連続的な音

 

「エンジンのパワーアップの為に排ガスをスムーズに流す(ガス流れ)、かつ不快な音を取り除き、人が聞いて心地良いパワフルな音だけを届ける。そして目標達成のカギである一番ピンに定められたのが、排ガス拡張です」。

必要なのは、力強いサウンドをクリアに奏でながら、理想的なガス流れでエンジンの高出力化を実現する拡張室。それらを成立するには、サイレンサーの構造そのものを一から見直す必要がありました。

しかし、いくらパズルを組み替えても、スペースそのものは広げることができないもの。そこでたどり着いたのは、拡張室の中に吸音室を入れることで拡張室容量は確保し、吸音材でガス流れをコントロールするという新しい発想から産まれたコンセプトでした。

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吸音室を工夫することで、拡張室の容量確保と理想なガス流れの実現に成功した

 

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こうして楽器も完成。ここからは、高品質を保つ調律師の出番となります。

 

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品質本部 村瀨

 

「今回のサイレンサーの音質を実現するには、吸音材を隙間無く充填する必要がありました。

しかし、吸音材のグラスウールは、反発力のとても強く、さらに、サイレンサーの内部はパイプが入り組んだ複雑な空間なので、グラスウール・パックを押し込んでも反発したり引っ掛かったりで思う様に収めるのは至難の業。

さらに、鉄板に覆われて充填状態の出来栄えを確認する事ができないのです。これが最初に直面した課題でした。悩んでいたところに志村が持ってきたのが、透明のサイレンサーのシェルケースでした」と語るのは、品質本部のスペシャリストである村瀨大輔(むらせ だいすけ)。

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従来の吸音材は子部品に組み付けられ、複雑な充填作業はありませんでした。充填状態にムラがあれば、ガス流れも音質も損なってしまいます。透明のシェルケースを使って、グラスウールの充填状態検証をサプライヤーと共に確認。充填手順変更やパックの形状変更などの改善を日々積み重ねます。理想を具現化する手法を確実なものにして、保証する為の作業です。

微調整を繰り返しながら、全員が思い描くパワフルな音質が出るポイントを探るその姿は、まさにコンサート前に楽器をチューニングする調律師のよう。

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パイプにグラスウールを巻きつける作業風景(誰が充填作業を行っても同じ品質になるようシンプルな工数で完成できるよう手順と形状を工夫した)

 

そして狙いの音色造りが出来上がってからおよそ10か月。そこには、狙いの心地よい音に確かな品質で作り込まれたサイレンサーを、実車で確認するエンジニアたちの姿がありました。

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三宅はこう振り返ります。

「出来上がったサウンドを実車で聴いたときは感動しました。明らかにワンランク上のロードスターになったと誰もが確信したはずです。ただ、それより驚いたのは開発メンバーの姿。無茶なオーダーばかりだったはずなのに、まるで苦労なんて全然無かったかのように涼しい顔して聴いているんです」。

 

「音」という領域でのさらなる“感”の深化。ロードスターを運転してみれば、走っていること、加速していることを、今までよりさらに感じとることができるはずです。

 

 

いよいよ次回で最終回。

第4回は、人間の感性に訴える「パフォーマンスフィールの作り込み」に迫ります。お楽しみに!!

 

カテゴリー:クルマ , ストーリー